モダチ


  それは空気みたいなものだから

 

 

 真昼の日差しが瞳に突き刺さる。ロッカクの里を出てから三日。

 サスケはこの三日間をほとんど屋根の上で過ごしていた。

 何をするというわけではない。

 ただ寝転がって空を見ていたり居眠りしたり……

「……ひま」

 サスケは大きな欠伸をした。せっかく外の世界に出れたというのに、ちっとも楽しくな

い。もっと面白いものが沢山あるんだと期待していたのだが。

 サスケは横に寝返りを打ち、

(あ、カスミだ)

 見知った顔を下に見つけ、上半身を起こした。彼女の傍にはもう一人、バンダナを頭に

巻いた少年がいる。

(またあいつと一緒なのかよ)

 確か名前はレン・マクドール。彼が何かを言い、カスミがクスクスと笑う。

「…何だよ。楽しそうにしちゃってさ」

 思わず小さく声に出すサスケ。彼女は絶対に自分の前ではあんな顔はしない。と、いう

より最近では彼自身もカスミを避けていた。

 

 ……カスミは大人。俺はまだまだ子供。

 

 そう思うと、何だか話しづらいのだ。

(俺も大人になったら、カスミと普通に話せるのかな)

 サスケは溜息をつくと、もう一度寝転がった。

 

 先ほどまで視線を向けられていた屋根の方を仰ぎ、カスミは息をついていた。

「あの子、大丈夫かしら……」

「あの子って、サスケくんのことかい?」

 レンの問いに、カスミはうなずく。

「まだ皆になじめていないようで……。あの子、里から出たのは初めてだから、多分どう

していいかわからないんだと思います」

「そっか……。でも大丈夫だと思うよ」

「え?」

 カスミが顔を上げると、そこにはあたたかい笑顔があった。

「友達や仲間なんて自然にできるものだし、それにここにいるのはいい人達ばかりだから。

心配しなくても大丈夫だよ」

「ええ……。そうですね」

 

「ふあ〜あ」

 今日何十回目かの欠伸が出た。退屈なほど欠伸が出るというのは本当らしい。

(…モンドでもからかいに行こうかな)

 むくっと起き、立ちあがろうと手に力をこめるサスケ。と―――

「ああ〜!!そこの人っよけろ〜!!!」

「え?」

 振りかえり、サスケは絶句した。自分とほぼ同い年くらいの少年がこちらに突進してく

る。

「なぁぁぁぁぁあっ!?」

 

 どかっ!!

 

 見事に激突。

 二人とも屋根から落ちる。サスケは何とかギリギリで受身をとった。

「おいっ、大丈夫か!?」

「あたたたた……」

 少年は頭をおさえながら起きあがる。見覚えのある顔だった。確か同じ108星の――

―

「ごめん。人に追われててさ」

「人?」

「ああ、うん」

 彼は立ちあがるとバツの悪そうな顔をした。

「ちょっとルックの奴を怒らせちゃったんだよねー」

「ルック……」

 少し考えて、サスケは「ああ」とうなずく。石版の前に居る仏頂面の少年のことだ。

「……フッチ」

「へ?」

 唐突な発言にサスケは顔を上げた。少年はにっと笑い、

「僕、フッチっていうんだ。君、サスケくんだよね?いつもここにいるけど何してんの?」

「べ……」

 サスケは言葉を詰まらせる。悪いことをしているわけではないのに、フッチから視線を

そらした。

「別に、何も」

「ふ〜ん。じゃあさ、僕と友達にならない?」

「は……?」

 サスケは一瞬、何を言われたのか理解できなかった。目を見開いて、にこにこしている

フッチを見る。

「僕、この城で同い年くらいの友達、欲しかったんだ」

「……」

 友達。

 外の世界での友達。

 ずっと憧れていた。

 それなのに。

 サスケは何故か素直にうなずくことができなかった。

「……か」

「?」

「知るかっ、そんなの!」

 気持ちとは正反対のことを吐き捨て、サスケは背を向ける。

「あ、ちょっと……!」

 フッチの制止は聞かず、彼は走り去っていった。

「サスケくん……」

「何、あいつ?」

「うわぁっ!?」

 真横から聞こえた声に、フッチは飛びあがる。いつのまにか隣にはルックが立っていた。

「さ…サスケくんだよ。三日前に仲間になった。石版の管理してるくせに知らないの?」

「興味無い。誰が仲間になろうが僕の知ったことじゃないし」

「ルック……君って……」

 何て無責任なのだろう。

「でも、何て言うか……」

 ルックはサスケが消えていった方に視線を向けた。

「まだまだ子供だね」

「…う〜ん……」

 曖昧な返事を返すフッチ。サスケは初めて里から出たときいている。

 急に変わった環境に、知らない世界に、戸惑っているのだろうか?

「子供といえばフッチ」

「何?」

「僕は石版にラクガキするような人間も子供だと思うんだけど」

「あ……」

 冷や汗が頬をつたう。忘れていた。ルックに追いかけられていたことを。

「覚悟はできてるんだろうね?」

「あ…ははは……。て、こんなとこで紋章使うな、バカ!」

 

 サスケは本拠地の外まで出ていた。息を整える。

(何やってんだろ、俺)

 まるっきり子供ではないか。三日もたっているのに、環境に慣れることができないなん

て。どうしていいかわからずに、逃げ出してしまうなんて。

 

”僕と友達にならない?」

 

「友達……」

 サスケははぁと溜息をついた。こんなところにいても仕方がない。

「……帰ろ」

 踵を返す。そして―――

「っ!!」

 サスケは後ろから殺気を感じ、とっさに跳躍していた。巨大な腕が先ほどまで彼が立っ

ていた地面にめり込む。

「な……っ!?」

 モンスター!?

 二本足で立つ、巨大な獣。

(こんなモンスター、見たことないぞ!?)

 少なくともこの辺りには生息していないはずだ。

「あ〜くそ!」

 サスケは立て続けに二回、手裏剣を投げた。モンスターはそれを弾き返す。

「マジ!?」

 これはマズイ。最高にマズイ。

 モンスターの手がサスケに伸び、彼は何とかそれを避けた。が―――

「まず……っ」

 バランスが崩れる。しりもちをつくサスケに、容赦無くモンスターが襲い掛かった。

 

 やられる……!!

 

 かたく目を閉じるサスケ。次の瞬間、風が彼の前髪を激しく揺らした。

「え…?」

 目を開いたサスケが見たものは、地面に膝をついているモンスター―――。

 後ろを振り返ると二人の少年が立っていた。

「まったく…。面倒事はごめんなんだけどね」

「大丈夫っ、サスケくん!」

「お前ら……」

 フッチとルックだ。

「何で……?」

「呆けてないで、さっさととどめを刺しなよ。僕の魔法をムダにする気?」

「あ…ああ」

 サスケは素早く立ちあがる。モンスターは体勢を立て直そうとしていた。今度は四本の

手裏剣を投げるサスケ。弱っているせいか全てヒットし、モンスターは悲痛な声をあげる。

そこでフッチがモンスターのふところに滑り込み、

「とどめ!」

 彼が繰り出した槍は深々と腹に突き刺さる。モンスターは断末魔の声を上げ、絶命した。

「ま…マジで死ぬかと思った〜……」

 サスケがへなへなとその場に座り込む。そんな彼を戻ってきたフッチが見下ろした。に

こにこ笑っている。

「ねぇ、僕達けっこういいトリオになれると思わない?」

「え…」

「だからさ、友達になろうよ」

「……」

 差し出された手をサスケはじっと見つめた。背後ではルックが「て、ゆーか何で僕も入

ってるわけ?」とぶつぶつ文句を言っている。サスケはふっと笑うと手を伸ばした。

「よろしくね。サスケくん」

 握ったその手は、とてもあたたかかった。

 

 友達。友情。

 それは空気のようなもの。

 形がなくて、自然なもの。

 

 そんなものを育てながら

 僕らは少しずつ大人になっていく。

 

                          END

 

こうして美少年攻撃は生まれた(嘘

美少年ラブです。サスケにぞっこんです(笑

思春期の男の子はいろいろと大変ですね。

ルックもなぁ……

まぁ、3のルックも好きですけどねv


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