君が一番


二月の寒い北風が吹き荒れる。
校庭は風で舞い上がった砂が嵐のようにうずまいていた。

「朽木伊知郎!ちょっと待てい!」

静かな下駄箱前の廊下に、男子の声がひびく。
きれいな顔立ちの少年は呼び止められて立ち止まった。

「ん?」

伊知郎と呼ばれた少年が立ち止まる。
廊下の奥の方から声の主らしき少年が走ってくる。
この少年もとても顔立ちが良い。

少年は伊知郎に追いつくと、ニヤリと笑う。
「どうした、羽咲日和?」
伊知郎はそう言いながらも、日和と呼んだ少年と同じようにニヤリと笑う。
日和はカバンから何やら紙を取り出す。
「今年も勝負だっ!!」










伊知郎と日和はB組とE組の下駄箱の前にそれぞれ立つ。
「去年は俺が7つでアンタが6つだったよな、朽木♪」
日和がそう言うと、伊知郎がくってかかる。
「あれは俺がその時期に彼女がいたからだろ!今年はアンタには負けねぇぞ」
伊知郎が怒鳴る。
「ひゅう、そりゃ楽しみだな♪」


「せーの!」


二人が一斉に下駄箱の小さな扉を開く。

ドサドサドサ。

小さな音を立てながら二人の足元にいくつかの小包が落ちる。
「どーうだぁ!俺は今年は12個だ!こりゃ勝ったな♪」
「残念だったなぁ、日和!俺も12個だ!」

「・・・・・」

二人の間に静かな沈黙が走る。
校庭から威勢の良い部活の掛け声が聞こえてくる。

「内容だ」

伊知郎が呟く。

「そうだ内容だよ!オイ見ろ俺なんか三年生からもらってるぜ」
「それだったら俺だってもらってるさ!見ろよコレなんかバスケ部部長からだ♪」
「バスケ部だって?甘い甘い!俺なんか吹奏楽部から貰ってるぜ!」
「そんなコト言ったら俺だって!見ろA組のマドンナ小原さんから貰ってる」
「いやいや!俺なんか三年F組のミス桜高の山崎さんから!」

「・・・・・」

ひとしきり言い合った二人。
大分言い合ったせいか、二人とも少し息があがっている。

すると突然、スっと伊知郎が日和に手を差し出す。
「・・・・・悔しいが、引き分けだな」
日和は少し驚くと、ニヤリと笑う。
「あぁ・・・・・そうだね」
日和が手を握りかえす。

「・・・・・それでも少しは俺の方が勝っていたかもな。なんたってミス桜だぜ」
「は?何言ってんだあんなオバサンよか同学年の方がよっぽどいいぜ」

二人の交わした握手にだんだん力がこもってくる。
ギリギリと睨み合う二人の横を大人しそうな男子が通り過ぎる。

「ん?」

伊知郎と日和の目線が自然とその男子に向く。
その男子は下駄箱をあくび混じりに開ける。



ドサドサドサドサ。



明らかに20個はありそうな数のチョコレートの小包が少年の足元に落ちる。
「・・・・・去年より少ないな」
少年はそう呟くと、ビニール袋に小包を全て入れる。
そして静かに登校口を去っていった。


「・・・・・」

伊知郎と日和はその間、ただ無口でその光景を眺めていた。





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