なたの夢


 彼女が笑う。

 それが好きだ。

『トールっ』

 名前を呼ばれて、オレも笑って、それだけで幸せで―――

 けど、その笑顔を最近見ない。

 原因はどう考えても戦争だろう。

 恨むよ、本当に……

 

「トール!ねぇ、トールってば!」

 彼女の声で目を覚ます。

 まぶたをこすりながら、オレは彼女を見上げた。

「あ〜ごめん、ミリィ……。謝るから殴らないで……」

「何寝ぼけてるのよ……。こんなとこで寝たら風邪ひくじゃない」

「こんなとこ……?」

 辺りを見まわしてみてから気づく。

 食堂―――

 昼食を食べて、そのまま眠ってしまったらしい。

 最近疲れがたまっているせいだろうか?

 どうもボケ気味だ。

「隣いい?」

「あ〜うん」

 オレは頭をかきながら応えた。

 そして沈黙。

 う……何だ、この雰囲気。気まずいじゃん。

「……戦争…はやく終わればいいのにね」

 ミリィがぽつりと言う。

 疲れきった声。

 そりゃ毎日毎日緊張しっぱなしじゃ仕方がない。

 いつ頭がおかしくなっても不思議じゃないと思うぞ、オレは。

 オレはミリィにかける言葉を探した。

 そして―――

「あのさ……ミリィ」

「何?」

 彼女が顔を上げる。

 オレは慎重に言葉を選びながら―――

「この戦争が終わったらさ。二人でいろんなとこに行こうな。いろんなとこ行って、バカ

みたいにはしゃいで、楽しい二人の思い出、山ほど作ってさ」

 どこでもいい。

 とにかく色々なところ。

 遊園地でも公園でも水族館でも―――

 どんなところでも二人なら楽しいから。

「そしたら、きっと戦争で辛かったことなんて吹っ飛んじまうよ。悲しいことより嬉しいこと

を多くして……だから…その……あ〜っと……」

 言葉を続けられず、オレは顔を手のひらで覆った。

「ごめん。わけわかんねーよな」

 ああ、かっこ悪い。

 元気付けてやるつもりだったのに。

 

 クス……

 

 ふいにそんな声が聞こえて―――

 オレはミリィを見た。

「あ……」

 笑っている。

 久々に見る笑顔だ。

「な…何だよ。オレ、何か変なこと言ったか?」

「違うわよ。そうじゃなくて……」

 ミリィはひとしきり笑うと、オレの顔の前に小指を差し出した。

「約束しましょう。この戦争が終わったら二人で一緒に楽しい思い出沢山つくること」

「ミリィ……」

 今度はオレが吹き出す番だった。

「この歳になって指きりか?カンベンしてくれよ」

「いいからするの!」

「はいはい」

 オレは苦笑し、彼女の小指に自分の小指を絡める。

 指きり。

 二人だけのかたいかたい約束。

「絶対よ。やぶったら承知しないからね」

「ミリィこそ。やぶったら針千本だぞ」

「もうっ」

 顔を見合わせて、オレ達は同時に笑みを零した。

 

 この戦争が終わったら、二人でどこかへ出かけよう。

 沢山遊んで

 沢山楽しんで

 沢山沢山、笑うんだ。

 

 君が居ればオレは幸せ

 君が笑えばもっと幸せ

 

 だからさ、ミリィ

 ずっとずっと、オレのそばに居てくれよ―――

 

                            終わり

 

あとがきのようなもの

 トーミリ好きの友人に贈ったものです。これ読んで、その友人は泣いてました。

 トール……。何で死んだ!?こんちくしょう!!

 って、まぁ、文句はナシにして……

 私もトーミリ好きです。永遠のバカップルです。いえ、ベストカップルです!!


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