当の


 その時、コトハが見たものは光だった。温かくて、懐かしい、あの光だった。

「よっしゃ。魔物撃破……っと」

 ガッツポーズをとったハルカは、服を引っ張られて後ろを振り返る。

「コトハ?何、怖かった?」

「…同じです……」

「え?」

「ハルカさん。ご主人様と同じ光ですっ」

「っ」

 ハルカはどきっとした。思わず自分の耳を疑う。

 同じ?

 今の光とコトハの主人の光が同じ?

 有り得ない考えが頭をかけめぐる。心臓の音が速くなるのを感じた。

「ちょっと待て。それじゃお前のご主人って……」

 ハルカの言葉は突如おこった地響きに遮られた。目の前の壁が動いている。

「す…凄いです…」

 壁の中心が割れ、それが次第に開いていき、やがて人が一人通れる程度の広さになった。

「…きっとこの先が一番奥だな」

「行きましょうっ」

 コトハは飛び跳ねそうな勢いで奥の入り口に向かい―――

「あのさっ、コトハ」

「はい?」

 ハルカの呼びかけで振り向いた。

「何ですか?」

「いや…その……。あんま期待しない方がいいかも。その…ご主人とかに」

「?」

 怪訝そうな顔をするコトハを見て、ハルカは脱力感を感じた。

 ――何言ってんだろ、オレ

 まだ頭の中が整理できていないのだろう。

「…やっぱ何でもないや。今の忘れて」

「?変なハルカさん」

 

 道の奥には小さな祭壇があった。ぼうっと青白い光をはなっている。

 それが魔力からなる光だということは、ハルカには一目でわかった。

「ハルカさん、ハルカさん。これ、何でしょう?」

「ん?」

 祭壇の中央に何かが置いてある。

 青い石を連ねたブレスレット―――

 光の発信源はこれらしい。

「ここを造った人がありったけの魔力を込めておいたんだろうな。どういうつもりだった

のかは知らないけど」

「はあ」

 コトハが顔をしかめている。

 ――まぁ、大昔の人間のことなんてどーでもいいわな

 ハルカは心の中で苦笑するとブレスレットを手に取り、コトハの右腕にはめてやった。

「もらってもバチはあたんないだろ。奥まで辿り着いたんだから」

「……え?え!?でも……」

「いーから持ってろって」

 ハルカは背中を向けた。この後言う言葉は、彼女の目を見て言うには少し照れくさかっ

たから―――

「言っただろ。お前は危なっかしいって。だからお守りがわりだよ。少しは身を護ってく

れるんじゃないかな……多分」

「…ハルカさん……」

 目を細めるコトハ。

 ハルカのこの優しさが好きだった。あたたかさが好きだった。

「帰るぞ」

「はいっ」

 溢れる笑みを抑えきれないまま、コトハはうなずいた。

 

 賞金である10万Gを受け取ると、ハルカ達はセトと楔の元へ向かった。

 遺跡の周りには途中で挫折し、戻ってきた者達がたむろしている。

「遺跡攻略おめでとー」

「オメデト〜オメデト〜」

 二人を拍手で迎えるセトとリト。

「セトさん達はどこまで行ったんですか?」

「へ?いや…僕らはすぐ行き止まりにぶち当たっちゃってさ。そこで戻ったんだよ。ね、

楔?」

「え!?あ〜うんっ。そうそう。いきなり行き止まりとはね〜」

 ハルカとコトハは顔を見合わせた。どうも二人の様子がおかしい。楔の服装もずいぶん

と変わっているし。まぁ、それはあえて気にしないでおくことにして……

「ほら、楔」

「へ……?」

 ハルカが突き出した袋に楔は首を傾げる。

「え、何?」

「何って賞金だよ。お前、仲間のお金駄目にしたんだろ?これ持ってかないと困るんじゃ

ねーの?」

「そりゃ、困る……けど」

 口をぽかんと開けた状態で、楔はハルカと袋を交互に見た。コトハとセトにも視線を送

る。

「遠慮しなくていーよ。オレ達は元々遊びで参加したようなもんだからさ」

「え……っと」

 もう一度ハルカに視線を戻して―――

 ハルカが頷いた。

「ありがと」

 楔は袋を受け取り、そして……

「…何か嬉しいね。こういうの……」

 笑った。

 その顔は嘘じゃない。

 正真正銘、本当の笑顔だった。


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