狭い宿の一室に五人の若者が集まっていた。
「なぁ、団長。やっぱり五人一部屋は無理があるぞ。どうやって寝るんだ、これ?」
「そーよ。あたしら女の子なんだから別室にしてよね」
「そんなこと言われてもなぁ……」
仲間達の不満そうな顔を順に見ていきながら、ヒドリは頭痛を覚えていた。
”風鳥”
今、世間をそれなりに騒がせている盗賊団だ。
メンバーは男三人、女二人の五人。
団長のヒドリ。
副団長のファラオ。
カギ開けの名人、シャロン。
金の管理をしているメイ。
それから―――
「元はといえば、楔。お前が駄目にしたあの紙さえあれば、孤児院に送る金のあまりをオ
レ達の生活費にあてられたんだぞ」
「あ、やっぱり楔さんの仕業だったんですか?」
「楔ぃっ!あんたねぇっ!!」
すかさずシャロンが楔にエルボーをくらわす。
そのままプロレス技をかけはじめた。
「いででででで!!!シャロン、ギブギブ!」
楔。
美しい銀髪と金色の瞳を持った少年。彼にはこれといって役割がない。そればかりか、
いつも皆の足を引っ張っているのだ。
今回の件が良い例だが、その他にも盗品の花瓶を割ってしまったり、逃げる途中に転ん
で危うく捕まりそうになったり―――。
とにかくバカでとろい。はたから見れば、何故彼が風鳥にいるのか不思議で仕方がない
だろう。
「シャロン。その辺にしといてやれ」
「だって〜」
「心配すんな。きっちり責任はとってもらうさ」
何やら意味深な笑顔を浮かべるヒドリ。楔の唇がひきつる。
「せ……責任って……?」
「ほい、これ」
「へ?」
ファラオが差し出してきた紙を楔はややためらいがちに受け取った。そこにはやたら
愛らしい文字でこんなことが書かれていた。
「”神秘への挑戦!!ファルガド遺跡ミステリーツアー”」
「何だそれ?」
「いや……さっきそこのお店の人にもらったんだけどね」
ハルカの問いに、セトは長方形の紙をぴらぴらと振りながら答えた。
「何でも謎の多い遺跡らしくて、一番奥まで辿り着いた人はいまだゼロ。このままじゃす
っきりしないから、人を沢山集めて何としてでも奥に行ってやろうっていう企画らしい
よ。一番最初に奥まで辿り着いた人には賞金ありだってさ」
「ふ〜ん」
「何だか楽しそうですね」
紙を覗き込みながらコトハ。ハルカはセトから紙を取り上げた。
「あ」
「参加者は正午に中央広場集合、ね」
「ハルカさん」
コトハが何かを期待するような瞳でこちらを見ている。それが妙におかしくて、ハルカ
は吹き出しそうになった。
「コトハ、参加したい?」
「ふえ……?」
コトハの体がびくっと震えた。居心地が悪そうに胸に抱いたリトの耳をつまんだり離し
たりする。
「な…何で私にきくんですか?」
「この旅はコトハのための旅だ。だからお前の意見が最優先なんだよ」
「そうそう。僕らはおまけみたいなもんだからさ」
「オマケ〜」
「え……えっと……」
コトハはハルカとセトの顔を交互に見た。二人とも応えを待っている。
コトハはたっぷり30秒おいてから……
「……参加してもいいですか?」
「当然」
二人は同時ににっと笑った。
参加者は思ったよりも大勢だった。人に埋もれそうになるコトハの手をハルカは引っ張
ってやる。
「す…すいません……」
「自警団とかいないのかな。ケガ人でたらどーすんだろ」
セトは辺りを見まわす。
次の瞬間、今までざわついていた広場が静まり返った。
「あ、はじまりますよ」
広場の中央に置かれた台に、マイクを持った人間が立つ。
『え〜皆さんこんにちは。これからファルガド遺跡へ向かうわけですが……。
まず、四人ずつのグループにわかれてください。遺跡内では何が起こるのかわからない
ので、そのグループで行動してもらいます』
「四人……」
ハルカはコトハとセトを見た。コトハがリトを少し上に上げる。
「リトさんを入れれば何とか……」
「ガウ〜」
「いや、それは無理だろ」
「じゃあ、どうすんの?」
「う〜ん……」
ぐるっと全体を見渡すハルカ。一人でいる人間をさがす。
――さすがにいないかな。一人で参加しようとするやつなんて……。
が―――
「いた」
「へ?」
「お〜い!そこの銀髪の人〜」
ハルカが呼びかけると、その少年はすぐこちらを向いた。金の瞳に射抜かれ、ほんの少
しだけハルカはどきっとする。
「え〜っと、俺のこと?」
「そ。あんた一人だろ。オレ達のグループに入って欲しいんだけど」
「うえ……?」
何故だか少年はうろたえだした。
「だ…だめっ!だめだめ、絶っっっ対だめ!!!」
「何で?」
「いや……だって……」
口をもごもごさせる少年。ハルカは苛立ってきた。少年の腕を無理やり引っ張る。
「一人じゃ参加できないだろっ」
「うわっ、ちょ……!」
「コトハ、セト、これで四人になったぞ〜」
ぶんぶん手を振るハルカに、セトとコトハは顔を見合わせた。
「ハルカって意外に強引だね……」
「ですねぇ」
楔は困り果てていた。
こんな遺跡の謎など一人でとっとと解いて帰ろうと思っていたのに。
そう、一人じゃないとだめなのだ。
誰かがいたら自分はまた―――
「あ、行き止まりだ」
セトの声に楔は立ち止まった。
ファルガド遺跡はすべて石造でできていた。目の前に石の壁が立ち塞がっているのだ。
「一発目の謎か」
「みんな、ここで行き詰まってるね」
「どうします?」
「……」
楔は石の壁を隅から隅まで見た。そして、少し色の違う場所を見つける。
――うっわ。安直な仕掛け……
建造者の頭の悪さがうかがえる。それとも始めだからわざと易しくしてあるのか。
――つーか、何でみんな気づかないわけ?
壁の周りをうろうろしている者もいれば、壊そうと叩きまくっている者もいる。
だんだんと胸がムカムカしてきた。
――……別にヒドリ達もいないし……。
普通の人間なら解けてもおかしくない問題だ。普通程度に押さえて動くのなら、問題
ないだろう。
楔は一歩踏み出し――
その前にハルカが動いた。
「うりゃ」
ハルカは足もとの色違いの壁を軽く蹴る。
縦10cm、横20cmほどの壁は簡単に奥に引っ込んだ。
腹に響く地鳴りとともに、壁が左右に分かれていく。
「すっげー単純……」
「ハルカさん、凄いですっ」
「いや、普通気づくだろ」
「……」
前に進むハルカを見て、楔は少し安心した。
――何だ。まともなやついるじゃん。
これなら自分がでしゃばる必要もなさそうだ。
いつも通り、ボロを出さずにふるまえる。
いつもの自分でいられる。
――大丈夫。
楔は心の中でうなずくと、ハルカ達の後を追った。
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