ロローグ


 その日は朝から天気が悪かった。

「ったく、何でこんな日に限ってこーいうことになるんだ?」

 洞窟の奥をランプの灯りで照らしながら、彼は愚痴る。

 ハルカ・リード、13歳。

 彼は先ほどの出来事を思い出していた。

 

 始めに言い出したのは誰だったか。

 多分、グループ五人の中で一番背の高いクリスの奴だったと思う。

「みんな知ってるか?

 西にある洞窟の中にはとんでもないお宝が眠ってるんだってさ。」

「え!?何それ、すげーじゃん!」

 頬を紅潮させすぐに食らいついたのは、お調子者のニック。

 その手の話には興味ゼロのハルカは、黙って事の成り行きを見守っていた。

「で、提案なんだけど、じゃんけんで負けた奴が今からその宝をとってくるってのは

 どーかな?」

「あ、面白そー。」

「やるやる。」

「異議な〜し。」

「まぁ、いーんじゃん?」

 予想通りの展開に、ハルカは適当に相づちを打つ。

 そして

「はい。じゃ〜んけんぽい!」

 何となくグーを出した。

 

「まさかあそこで負けるとは…。あ〜運がない!」

 見事な一発ストレート負けだった。

「ま、いーや。

 はやいとこお宝でも何でも見つけて、とっとと帰ろ。」

 洞窟の奥に歩を進める。

 ランプの灯りがあってもなお暗く、じめじめしていてあまり気分の良い場所ではない。

 長居はごめんだ。

「本当にこんな所に宝なんてあるのかな……って、うわぁ!?」

 何かかたいものにつまずき、ハルカはずっこけた。

 地面に顔をぶつけながらも、ランプの灯りは死守する。

 真っ暗になってしまったらどうしようもない。

「いてててて……、何だぁ?」

 ハルカは起きあがり、ランプでつまずいたものを照らしてみた。

 そして絶句。

「女……の子?」

 そう。

 そこには少女がうずくまっていた。

 美しい顔立ちをしている。

 だが、雪のように白い顔からは、生気がまったく感じられなかった。

 

 死んでいる…?

 

 ハルカはごくっとつばを飲み込む。

 そして少女の足の方に視線を移した。

 大きな岩が乗っかっている。

 なるほど。

 岩に足を挟まれ、身動きがとれなくなったのだろう。

 それでそのまま……

「…このままじゃ、かわいそうだよな。いくら何でも…。」

 岩に両手をそえ、押してみる。

 動かない。

 更に力を込め、押してみる。

 びくともしない。

「なんつー重さだよ…。」

 この分だと、少女の足は粉々だろう。

 ハルカは溜息をついた。

「あんま使いたくないんだけどな…。」

 ぼやきつつ、人差し指で岩の表面をなぞる。

「砕けろ。」

 ハルカの声に反応するように、岩は粉々に砕け散った。

 あとは少女を外まで運んで、どっかに埋めてやらないと……。

 ハルカは少女の体を持ち上げるべく、その細い腕を掴んだ。

「え…?」

 違和感を覚え、顔をしかめる。

 ―――何だ、これ…?

 すごく重いというわけではない。

 だが、この華奢な体ではまずありえない重さだ。

 彼女が人間なら絶対にありえない重さだ。

「…まさか…。」

 ハルカの頭にある考えが浮かんだ。

 もし、彼女が人間ではなかったら?

 それ以外の何かだったら?

 可能性は低いが、ゼロというわけではない。

「……人形…?」

 彼のつぶやきは暗い洞窟の中に、思ったよりも大きく響いた。

 そしてその後の溜息も。

「やっぱ今日は厄日かも…。」


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