じめのおはなし


 むかしむかし

 地上にまだ「魔法」が存在していたころ。

 エルク・シュレッガーという大魔法使いがいました。

 彼は広い広い森の中の小さな小さな家で、一体の人形と共に暮らしていました。

 

「ねぇねぇ、ご主人様。コトハ、人間になりたい。」

 ある日、人形が言いました。

「人間に?」

「うん。ご主人様ならできるでしょ?

 コトハ、ご主人様と同じ人間になりたいの。」

「そうか…。」

 エルクは少し苦笑しました。

 人差し指を立て、言います。

「それなら旅に出て、人間について勉強してきなさい。

 嬉しいこととか悲しいこととか、沢山のことを覚えたらまた、ここに戻ってくるんだ。

 そしたら、人間にしてあげるよ。」

「嬉しいこと…悲しいこと……。」

 人形は口の中で繰り返し、大きくうなずきました。

「うん、わかった!コトハ、沢山たくさ〜ん勉強する!

 だからご主人様、ずっとずっとコトハのこと待っててね。」

「ああ、待ってるよ。」

 そして二人は指切りをしました。

 約束です。

 かたいかたい約束です。

 

「待ってるよ。」

 

 その言葉を胸に人形は旅に出ました。

 

 人間になるために。

 

 再びこの場所に帰ってくるために。

 

「がんばるからね。ご主人様。」



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