想郷


どうか、誰も傷つきませんように―

 

「…さん、ロードさん。」

「ふえ?」

 男の声でロードは目を覚ました。

「うわぁっ!?」

「しー。静かにしてください。」

 男―サフィは人差し指を口に当てる。ロードはサフィをにらみつけ、

「何だよ、お前っ。美少女の寝込みを襲おうとするなんて…。」

「違いますよっ。誰がそんな命知らずな…あわわ…。」

「ん、何か言ったか?」

「何でもないです。何でも。」

 サフィは作り笑いを浮かべながら、ぶんぶん首を振った。

「それよりロードさん。お話ししたいことがあるんです。外に出ていただけませんか?」

「あ?まぁ、別にいいけどよ…。」

 

 テントの外にはロード、カロール、ジルが勢揃いしていた。

「それで、話って…。」

「何なんだよ?」

 面倒くさそうにきくカロールとロード。ジルはいつも通り無言だ。

 サフィは咳払いをし、

「あ〜いえ、その…大方の予想通り王子のことなんですが……。」

「あいつまた何かやらかしたのか?」

「いえ、そうではなく…。」

 サフィはふと真剣な顔つきになった。

「その…あまりにも緊張感がなさすぎるような気がしませんか?」

「あ〜まぁ…。」

「確かに。」

「同感だ。」

 これにはジルも口を開いて同意する。

「このように仲間も集まり、よく頑張っているとは思います。プラチナと戦うという事実も

しっかりうけとめているようです。ですが……。」

 単純で無邪気で驚くくらい真っ直ぐで―。

 だからこそ……

「王子はわかっていない。この戦いで起こるであろう最悪の事態を…。」

 そう、例えばこの中の誰かが…

「まぁ、あの王子には少々甘いところがありますからね。」

「ボンボンだから仕方ねぇーだろ。」

 淡々と言うカロールと吐き捨てるように言うロード。

「そこでです。」

 サフィはぴっと人差し指を立てた。

「ひとつ、みなさんに協力してもらいたいんですが…。」

 

 朝―

「ん〜よく寝た〜。」

 目を覚ましたアレクは大きくのびをした。テントを出るとカロール、ロード、ジルは

すでに起きていて、何やら話をしている。

「あれ、サフィは?」

「あ〜、あいつなら偵察に…。」

「大変ですっ大変です!!」

 ロードが答えようとした瞬間、サフィがかけ込んできた。

「大変ですよっ王子!」

「ふぇ?何かあったのか?」

「プラチナが攻めてきました!」

「うえええええ〜!?」

 妙な声を出し、驚くアレク。

「私が今一度様子を見に行ってまいりますっ。王子達はここでお待ち下さい。」

「オ…オレも行くよっ。」

「え…?あ…いえ、私1人で充分でございますです!では、行ってまいりますっ。」

 サフィはそそくさと外に出ていった。

「…サフィ、何か変……。」

 アレクは目をぱちくりさせる。

「思いっっっきり不自然でしたね。」

「ばれるのも時間の問題だな…。」

 カロールとロードは溜息をついた。

「へ、ばれるって?」

「べっつに〜。」

「こっちの話です。」

「むぅ〜…。」

 ますます訳が分からなくなり、アレクは首をひねったのだった。

 

 数分後―

「サフィ、遅いなぁ…。」

 アレクはだんだん心配になってきた。

「何かあったのかな…やっぱオレも行……。」

「うわぁぁぁぁっ!!」

「っ!?」

 響き渡る悲鳴―

「サフィっ!?」

 アレクはとっさにテントを飛び出していた。

 

 しばらく走って、アレクは足を止めた。地面に人が倒れている。

「…サフィ……?」

 アレクはそれ以上言葉が出なかった。サフィの腹のあたりから流れている赤いモノは何だろう?

「うわっ、何だこれ!?」

「…ひどいですね…。」

「……。」

 続いて、ロード、カロール、ジルもかけよってくる。

「サフィっ!!冗談だろ!?」

 アレクはしゃがみこみ、サフィの体を揺さぶった。

「目を開けてよ!!」

「おやめなさい、王子。もう、手遅れです。」

 残酷すぎるカロールの言葉。

「そんな……っ。」

「ここは僕達に任せて、王子はテントにお戻り下さい。」

「でも、オレ……。」

「いーからおとなしく戻ってろ!」

「……うん…。」

 アレクは立ち上がり、とぼとぼとテントの方へ歩いて行った。

 彼の姿が見えなくなると、サフィが勢いよく起きあがる。

「し…死ぬかと思いました……。」

「お前、本気で息とめてたのか?」

「え…はい。何かもう、あと、一息で本気で逝くところでしたよ…。」

「まったく…。」

 ロードは溜息をつき、

「さて、あの王子様に種明かししてやんないとな。」

 

 日も暮れかけたころ。

 アレクは1人、地面に穴を掘っていた。溢れ出す涙をぬぐおうともせずに。

 そんな彼に後ろから声がかかる。

「何をしているんです?」

「サフィを埋める穴を掘ってるんだよ。…お墓くらいつくってあげなくちゃ……。」

「お墓って…。私、まだ生きてるんですけどね。」

「そう生きてる……って、え?」

 アレクは、はっと振り返った。後ろに立っていたのは、カロール、ロード、ジル。

 そして……

「サフィ…?」

 そう、サフィだ。

 彼が複雑そうな顔で立っていた。

「あ…あれ?なんで…だってさっき血が…あれ?」

「申し訳ありません、王子。あれ、全部演技だったんですよ。」

「…演…技?」

「ええ。プラチナが攻めてきたというのも嘘でして。」

「な……っ。」

 アレクは怒りとも安堵ともとれる瞳で一同を見回した。ロードとカロールがバツの悪そうに

顔をそむけている。ジルは相変わらず無表情だったが。

「何だよ、お前らっ。王子をだますなんて無礼だぞ!」

「申し訳ありません。ただ、王子にわかってもらいたかったんです。」

 真剣な表情になるサフィ。

「いつか、今日みたいな出来事が嘘じゃなく、本当に起こってしまうかもしれないことを。」

「え?」

「プラチナは本気です。もしかしたらこの中の誰かが死ぬかもしれない。そういう緊張感を

王子に持っていただきたかったんです。」

 それはカロールかもしれない。

 ロードかもしれない。

 ジルかもしれない。

 自分…かもしれない。

 だが……

 ふっ

 アレクは笑っていた。

「王子?」

「死なないよ、誰も。ってゆーかオレが死なせない。」

「そんなこと…。」

「言ったじゃん。オレがみ〜んな幸せにしてみせるって。」

「みんな?」

「うん。」

 アレクは笑顔でうなずく。

「カロールもロードもジルも、それにサフィも。」

「…本気ですか?」

「本気だよ。何か不満?」

 腰に手をあてるアレク。

「不満っていうより、不安だな。」

「口で言うだけなら誰でもできますからね。」

「何だよっ。ロードもカロールも〜。オレが王になれば、みんな幸せになれるだろっ。」

 みんな幸せに。

 それは都合のいい考え方。

 甘すぎる考え方。

 でも…

「そうですね…。」

 サフィはうなずいていた。

「あなたが王なら、みんな幸せになれるかもしれませんね…。」

「…サフィ?」

 アレクは顔をしかめる。

 サフィの表情がひどく寂しそうだったのだ。

 しかしそれは一瞬のことで…

「さ〜て、真面目な話はこの辺にして、夕食にしましょうか。」

「うっ…。まさかまた作りすぎたとか言わないよね?」

「あ…あははは…は。……すいません。」

「何〜!?」

 たちまちまきおこった笑い声が夜の空へととけていった。

 

 みんな幸せにする。

 それはきっとあなたの本心。

 もしも誰かに裏切られても、あなたはそれを言えますか?

 

 言うことができるのでしょうか。

                         おわり

 

あとがきのようなもの

 はい!以前あったアポクリページから引っ張り出してきました!

 サフィ好きなのが見え見えです(笑

 理想郷……みんな幸せだといいですよねぇ。


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