この想いをどう伝えればいいのだろう?
 
「天真殿!」
 思わぬ人物に呼び止められ、森村天真は顔をしかめた。肩で息をしている袈
裟姿の美しい少年。
「永泉?めずらしいな。オレに何か用か?」
「え・・・えーと・・・その・・・ですね。」
「?」
「こ・・・ここでは話しづらいのですっ。どこか静かな場所へ行きましょう!」
「まぁ、別にいいけどよ・・・。」
 こたえつつ、天真は眉をひそめた。どうも様子がおかしい。
 
 桂川の川辺までくると、永泉は「ふぅ。」と息をついた。
「ここまで来れば私たちの会話が神子の耳に届くことはないでしょう。」
「?あかねにきかれるとマズイ話なのか?」
「ええ・・・まぁ・・・。」
 永泉は川面に視線を漂わせ、
「このようなことはやはり、神子と同じ世界で生きてきた天真殿におききする
のが一番だと思ったのです。」
 妙に改まった言い方だ。
「・・・あかねのことか?言ってみな。オレがわかることだったら答えてやる
ぜ。」
「あ・・・ありがとうございます。えーと・・・あの・・・その・・・。」
 口ごもる永泉。ききにくいことのようだ。
 天真は仕方が無く、永泉の言葉を待つことにした。
 10秒・・・30秒・・・1分・・・・・・。
「おい。いい加減言わないと、オレは帰るぞ。」
「あっ。も・・・申し訳ありません・・・!本当に私は優柔不断といいましょ
うか・・・。」
「いーから、はやく話せ!!」
「は・・・はいっ!その・・・どうすれば神子に喜んでいただけるのでしょう
か?」
「あ?」
 天真は一瞬、永泉が何を言っているのか理解できなかった。
「天真殿と話していらっしゃる時の神子はとても楽しそうで・・・。私にはど
うしても神子にあのような顔をさせることができないのです。私は神子の笑顔
をこんなにも望んでいるというのに・・・。」
「はぁ・・・。なるほどね。」
 天真は全てを理解した。確かに永泉にしてみれば、絶対にあかねにはきかれ
たくない話だろう。
 なぜなら・・・
「永泉。お前、あかねのこと好きなんだろ?」
「な・・・何をおっしゃるのですかっ!私は八葉です。み・・・みみみ神子に、
れ・・・れ恋愛感情など・・・!!」
 真っ赤になりながら、あたふたしだす永泉。どうやら図星らしい。わかりや
すい性格ではある。
 天真は「ははっ。」と笑い、
「わかった、わかった。あかねを喜ばす方法だろ?簡単じゃねーか。プレゼ・・・

じゃなかった。贈り物の一つでも渡せば、女ってのは喜ぶもんだぜ。」
「贈り物・・・ですか。」
 永泉はふんふん頷く。天真はびしっと人差し指を立てた。
「が、しかーし!それよりも、もっとあかねを喜ばす方法がある。」
「本当ですか?」
「まぁ、うまくいけばだけどな。・・・その方法とは・・・。」
 ニヤリと笑う天真に、永泉はごくりと唾を飲む。天真は少し低めの声でささ
やいた。
「"チュウ"だ。」
「・・・ちゅう・・・。」
 ぽんっと手を打つ永泉。
「ねずみを連れてくればいいんですか?」
「違う!あーもぉ。これだから"京"はめんどいんだ。えーと・・・確か日本
語で・・・"接吻"・・・?だったっけか。」
「せ・・・!!?」
 永泉が凍りついた。
「せ・・・せせせ・・・って、そそそそんな無礼なっ!」
「お前さぁ・・・。ひかえめすぎんだよ。それくらいやんないと、あいつに想
いは伝わんないぞ。あいつ鈍感だからな。」
「わ・・・私が申しているのはそういうことでは・・・。」
「い・い・か・ら!」
 天真の大声が永泉の言葉をさえぎる。
「とにかくあかねをどこかに連れ出して、とりあえず手をつなぐだろ。そした
らすかさずGO!!だっ。」
「ご・・・"ごー"ですか・・・?」
「おう。ごーだ。」
「はぁ。」
 永泉は複雑な表情をうかべた。
(天真殿は何か大きな勘違いをしている・・・。)
 自分が神子を好きなどと。そんなことはありえない。いや、あってはいけな
いのではなかろうか?神子は自分にとってあまりにも遠すぎる。
「あぁ。それとな、永泉。」
「あ・・・はい。」
「おもいきって"あかね"って呼んでみな。喜ぶとおもうぜ。」
 そう言って天真はきょとんとする永泉に、にっと笑いかけてみせた。
 
「あ・・・あのっ、神子・・・?」
「あ、永泉さん。どうしたんですか?」
 振り向いたあかねに、永泉の鼓動は大きく高鳴った。自然に顔が熱くなる。
 あかねは首を傾げると永泉にかけより、彼の額に手のひらをあてた。
「み・・・神子っ!?」
 あかねの手が離れると、彼の心臓は早鐘のように鳴っていた。
「あ、ごめんなさい。真っ赤だったから熱でもあるのかなぁって思って・・・。」
「だ・・・大丈夫です。それより神子。今日は私とともに過ごしませんか?そ
の・・・神子にお見せしたい場所があるのです。」
「いいですよ。行きましょう。」
 かなりあっさりとあかねは答えた。
 
 永泉が見せたかった場所、それは音羽の滝だった。
「永泉さんはここが好きなんですか?」
「ええ。ここに来ると不思議と心が落ち着くのです。」
「静かですもんね。」
 あかねはきょろきょろと珍しげに辺りを見回す。
 永泉は先程の天真の言葉を思い出していた。
(とりあえず手をつなぐだろ。そしたらすかさずGO!!だっ。)
 溜息をつく。やはりそんなことできるわけがない。
(そもそも"ごー"とは何なのでしょう?碁と何か関係があるのでしょう
か・・・?)
 永泉がいろいろと考えをめぐらせていると・・・
「・・・永泉さん?」
「わっ!?」
 突然接近してきたあかねの顔に、彼はおもわず甲高い声をあげる。
「何だか元気ないですけど・・・。本当に大丈夫なんですか?」
「だ・・・大丈夫ですっ。あ・・・あの・・・神子・・・?」
「何ですか?」
「か・・・顔・・・あまり近づけないでいただけませんか・・・?」
「?」
 首を傾げ、更に顔を近づけてくるあかね。もう息がかかるような距離だ。さ
っきといい、今といい、この娘は大胆すぎる。
(あいつは鈍感だからな。)
 天真の言葉の意味がなんとなく理解できた。
 永泉がどうしていいかわからず視線を泳がせていると、あかねはふと困った
ような顔になった。
「永泉さん。私のこと嫌いですか?」
「え・・・っ。」
 あせる永泉。
「そんな・・・けっして、そのようなことはございません!!・・・私は・・・
っ。」
 そこで彼の言葉はとぎれた。一歩踏み出した地面がちょうどぬかるんでいて、
バランスを崩してしまったのだ。
「きゃっ!?」
 永泉の体に押され、あかねは地面に仰向けに倒れる。そして・・・
「っ!?」
 あかねの上に倒れ込んだ永泉と、彼女の唇がそっと触れた。目をぱちくりさ
せるあかね。
「す・・・すいませんっ!!」
 永泉は慌ててあかねの上からどく。そして凄い勢いでどこかへと走っていっ
てしまった。
「ちょっと・・・永泉さんっ!?」
 あかねは立ち上がり、彼の後を追った。
 
 永泉は木によりかかっていた。ただし、こちらに背を向けるような形で、で
ある。
 あかねはそのがっくりと落とされた肩に声をかける。
「あのー・・・。永泉・・・さん?」
「来ないでくださいっ!」
 おもいもよらぬ大声にあかねは少し驚いた。永泉はとたんに弱々しくなった
声で続ける。
「あわす顔もありません・・・。私は神子になんてことを・・・。」
「永泉さんが謝る必要ないですよ。事故じゃないですか。」
「神子が良くても私は許せません!自分が許せないのです・・・。」
 とりかえしのつかないことをしてしまった。その思いが永泉の心に重くのし
かかっていた。
(天真殿・・・。私はどうすればいいのですか?)
「永泉さん・・・。」
 あかねは「ふぅ。」と溜息をつき、永泉に歩み寄った。彼の肩をぽんっと叩
き、
「天真君に何か言われたでしょう?」
「え!?」
 永泉は驚き、振り向いた。
 
「もぉ。天真君ったら、そんなこと言ったんですか?」
「ええ・・・。ですが、神子。何故私が天真殿に何かを言われたと気づいたの
ですか?」
「それは・・・。」
 あかねはふっと不敵に笑い、
「私が人の心をよめるからです。」
「えぇっ!?そ・・・そーだったのですか・・・っ。」
 真面目に驚く永泉。あかねはクスクスと笑った。
「冗談ですよ。実はさっき天真君と一緒にいるところを見かけたんです。それ
に、今日の永泉さん、様子が変だったから。」
「変・・・でしたか・・・?」
「ええ。それはもう。」
 永泉は恥ずかしくなったのか下を向く。
「やはり私は八葉失格ですね・・・。神子に迷惑ばかりかけて・・・。」
「迷惑だなんて思ってません。ただ、いろいろと悩まなくたって、凄く簡単に
私を喜ばす方法があるんです。」
「凄く簡単に神子を喜ばす方法・・・?」
 顔をあげた永泉にあかねはにっこりと微笑みかけた。
「笑っていて下さい。好きな人が笑っていてくれるだけで女の子はとても幸せ
な気持ちになれるんですよ。」
「え・・・。」
 永泉は目を見開く。
「そ・・・そんな・・・。もったいないです・・・私など・・・。」
「そんなことないです。永泉さんは充分素敵ですよ。」
「神子・・・。ありがとうございます・・・。」
 永泉は胸が一杯になるのを感じた。こんな気持ち初めてだ。これが"好き"
というものなのだろうか?
「まぁ、もっと欲をいえば天真君が言うように名前で呼んでくれると嬉しいん
ですけどね。」
「あ・・・。」
 ぼっと赤くなる永泉。
「す・・・すいません・・・。それはまだ、ちょっと・・・。」
「いいですよ。あせらなくても。時間はまだあるんですし。ね?」
 
 背後からばたばたときこえる足音に天真は振り返った。
「よぉ、永泉。どうした?」
 永泉は息をきらし、
「て・・・天真殿にどうしてもお礼を申し上げたくて・・・。」
「礼?」
「はい。今日は天真殿のおかげで、神子と良い時をすごすことができました。
本当にありがとうございました。」
「よせよ・・・照れるな・・・。」
 天真はぽりぽりと頭をかく。
「まぁ・・・さ。また何かあったらオレに相談しろよ。よく考えりゃあ、オレ
達ってタメだもんな。」
「ため・・・?」
 きょとんとする永泉。
「同い年ってことだよ。とにかく、オレはいつでも協力するからさ。」
「ありがとうございます!!」
 そう言って、永泉はにっこりと笑ってみせた。
 
 たとえいつか避けられない別れが訪れたとしても、自分は笑っていよう。
 あの人がどうか幸せであるように・・・。
                                    おわり
 
あとがきのようなもの
 友人からのリクエスト(?)で書いたものです。とにかく永泉好きな私なの
で、かなり力が入りました。BGMは「色彩の雫」&「白・曼珠沙華」で。キ
ャラのしゃべり方とか間違ってそうで不安です。不安なのでこの方にきいてみ
ましょう。
泰明「問題ない。」
ありがとうございました。
永泉&天真について
 けっこう微妙な組み合わせですね。ゲームではほとんど絡んでないし。でも「花鳥風月」
でなかなかいいコンビだったんで、私は好きです。天真のラリアット&バックドロップは
痛そうですな。



BACK