あかねは溜息をついていた。雨の日はつまらない。どこにもでかけられない
からだ。
 しだいに強まる雨音をききながら、いつしかあかねは眠りについていた。
 
「お〜いっ、あかね!!」
「…?」
 甲高い少年の声であかねは目をさました。イノリだ。
「よっ、オレと今からでかけないか?」
「でも、雨…。」
「もうやんじまったよ。とにかく来てみな。虹が綺麗だぜ。」
 
 空を見上げて、あかねは目を見開いた。
「うわぁ〜、すご〜い。」
 感嘆の声をもらす。
「な?オレと来て正解だろ?」
「うん。」
 虹なんて見たのはいったい何年ぶりだろう。あかねは素直に感動した。
「なぁ、あかね。」
「なぁに?」
「虹がどうしてあんなに綺麗なのか知ってるか?」
「え?」
 首を傾げるあかね。しばらく考えこみ、
「…わかんないよ。どうしてなの、イノリくん?」
「それはさ。人の感情を表してるからなんだぜ。」
 イノリは誇らしげに言い放った。
「人の…感情?」
「そ。赤は情熱、橙は感動、黄色は勇気って具合にな。」
「他の色は?」
「緑が希望で青は孤独、藍は悲しみだ。んでもって紫は不安。」
「へぇ〜。」
 あかねはじっとイノリを見つめた。
「な…何だよ?」
「イノリくんって、すごく素敵なこと考えるなぁって。」
「ま…真顔で言うなよ。照れんじゃん。」
 わずかに頬を赤らめるイノリ。ぽりぽりと頭をかき、
「なーんて…、全部姉ちゃんの受け売りなんだけどさ。」
「お姉さんの?」
「ああ。姉ちゃんの口癖なんだ。"虹のような人になりなさい"って、"虹の
ように、どんな感情でも受け入れられる人になりなさい"って…。」
 虹のような人。どんな感情でも受け入れられる人。
 そんな自分にいつかなれたら…。
「最近わかってきたんだ。
 姉ちゃんはちゃんと受け入れてんだよな。あの鬼を好きだって気持ちをさ。
どんなにひどい目にあわされても逃げないで、真っ直ぐに…。
 オレはそんな姉ちゃんが好きだし、すごいと思う。だから……。」
 イノリはそこまで言って空を仰いだ。
「だから、オレも受け入れる。姉ちゃんのこと応援しようと思うんだ。」
「イノリくん……。」
 彼の横顔はとても晴れ晴れとしていた。
 あかねが嬉しそうに微笑んでいると、イノリがふとこちら側を向く。
「それとさ、あかね。今度はオレのことなんだけど……。」
「何?」
「だから…その、あれだよ、あれっ。花!!」
「花……?」
 あかねはきょとんとする。何故、花という言葉が出てくるのだろう?
「お前、昨日、友雅の奴に赤い花もらってただろ?あれ、どうした?」
「部屋に飾ってあるけど……。」
「どーして、お前はそーなんだよっ!!」
「ふぇ!?」
 突然怒鳴ったイノリに、目を丸くするあかね。不安そうな顔で、
「わ…私、何か悪いことした……?」
「あ……。いや…悪かった。オレが言いたいのはそーじゃなくて……。」
「?」
「つまりだな……。」
 イノリは着物の袖の中から何かを取りだし、あかねにさしだした。
「これは……。」
 薄桃色の小さな花……。
「お前には派手な花より、こーいうはかなげな花の方が似合ってんだよ。絶対
に!!」
 ぶっきらぼうにイノリ。あかねの顔が赤くなった。
「イノリくん…。言ってて恥ずかしくない?」
「うるせぇ。いらないならいらないって言え!」
「ううん。」
 あかねは首を横に振り、花を持つイノリの手をぎゅっと握りしめた。
「ありがとう。大切にするからね。」
 
 虹のようになりたい。姉ちゃんのように強くなりたい。
 だからオレはこの気持ちも真っ直ぐに受けとめる。
 
 お前が好きなんだ。
                          おわり
 
あとがきのようなもの
 短いですね…。一応イノリ×あかねなのですが。
 この話はイノリ役の高橋直純さんがうたっている「虹色・腕」をもとにして
つくりました。歌詞がすごくステキだったので。
 て、いうより私的「イノリ・通常恋愛第四段階目」?恥ずかしいセリフ言い
まくってますね〜。


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