つもマのつく微笑みを!A


「ヴォルフっ!とりあえずツェリ様のとこ行こう。なっ?」

 おれの提案にヴォルフは整った顔をわずかに歪めた。

「母上の?何故だ?」

「さっきの子供さぁ、何となくお前に似てただろ?もしかしたらツェリ様の隠し子かもと

か思っちゃったりなんかして」

「そんな馬鹿なことがあるかっ!」

「言いきれる?」

 何せ合言葉は「愛こそ全て」のラブハンターだ。異国に星の数ほど愛人がいるとかいう

噂もきいたことがある。

 セクシークイーンさんだもんなぁ。あんなのに誘惑されたらどんな男でも一度や二度く

らい過ちを犯したくなるよ、うん。おれだって危なかったし。

 似たようなことを思ったのかヴォルフがしぶい顔をした。

「母上か…。まさかとは思うが……」

「あーら。あたくしがどうかしたのヴォルフ?」

「母上っ!?」

 噂をすれば影。

 ベタな言い回しだがかなり需要性はあったりする。

 中学時代、数学の内藤先生はハゲだヅラだと騒いだ数分後の授業。その日は台風接近の

影響で風が強くて、たまたま開いていた窓から突風が教室を襲ったんだ。吹き飛ぶ教科書

やノート、ついでにヅラ。

 噂をすればハゲ。

 あれ?これはちょっと違うような気がするな……。

「母上。おききしたいことがあります」

「なあに?」

「その…」

 ヴォルフはそこで言葉を切ると、一度唾を飲みこんだ。

 うわー。こっちの方が緊張しちゃうよ。八十過ぎにもなって弟の存在が発覚なんて、心

臓発作でぽっくりいっちゃうって。

「母上。ぼくに弟がいたりはしませんか?」

 よくきいたヴォルフ!!

 おれは心の中で彼の勇気ある行動を称えると、ツェリ様の答えを待った。彼女は魅力的

な唇をわずかに上げる。

「あらやだ。ヴォルフってば弟が欲しかったの?そうならそうと言ってくれれば良かった

のに」

「はい?」

「そうねぇ。どうしてもって言うなら考えてもよくてよ」

「いえ、けっこうです。行くぞユーリ」

「へ?え?あ?」

「では母上、失礼します」

 おれはヴォルフに引っ張られつつも、もてないくんには眩し過ぎるツェリ様の笑顔に手

を振った。彼女の姿が見えなくなってから、ヴォルフはやっと手を離してくれる。

「取り越し苦労だったかぁ。良かったな、ヴォルフ」

「これでお前の愛人説が有力候補だ」

「は!?」

 いつの間にそんなことに!?

「どこで引っ掛けたのか知らないが、本当にお前は尻軽だな」

 何かごごごって音がするような。

 もしかして怒ってる?すっげー怒ってる!?

「ちょ…っ。まてまてまてまてま……いてっ」

 焦り過ぎて舌を噛んだ。

「おれにはそんな趣味はゴザイマセン!…っていうか冷静になって考えてみろよ。あんな

小さな子供、しかも男が愛人なわけないだろー?」

「ぼくは男だがお前の婚約者だ」

「それは、まぁ運命のいたずらというか…」

 というよりおれ、まだ認めた覚えないし。

「やっぱり直接あの子に事情を訊くしか―――」

「あ、いたいた。ユーリっ」

「ん?」

 聞き覚えのある声に顔を上げた。コンラッドがこちらに近づいてくる。ヴォルフが小さ

く舌打ちするのが聞こえた。

「帰ってたんだ」

「ええ、つい先程。あなたを探していたんですよ」

「おれ?何で?」

「この子が陛下に会わせろと」

「?」

 視線を下に下ろしていくと、気の強そうな緑色の瞳と目が合った。

「あ」

 おれとヴォルフ、同時に声をあげる。間違い無い。あの子供だ。

「さっきはよくも…っ」

「わーっ、ヴォルフ!とりあえず話。話きこう!な!?」

 一歩踏み出しかけたヴォルフを何とかなだめてから、おれはもう一度子供と目を合わせ

た。挑戦的な瞳がキラリと光る。

「あんたが魔王陛下?」

「まぁ、一応」

「へぇー。あまりにも弱そうだから使用人か何かだと思った」

「う…」

 否定できないのが悲しい。

 うなだれかけたおれにコンラッドがフォローを入れた。

「この方は間違い無く二十七代魔王陛下だよ」

「じゃあ…」

 子供は右腕を上げ、びしっと音が聞こえてきそうな勢いでおれを指差す。

「オレに倒されろ、魔王!!」

「………………はい?」

 一瞬、頭の中が真っ白になった。

 

 魔王といえばRPGでいうラスボス。

 勇者に倒されるものだと相場が決まっている。

 だが、その勇者がLV99どころか十歳にも満たない子供だというのはさすがに予想で

きなかった。

「どうしたんですか。頭なんて抱えて」

「おれは闘うべきなんだろうかと」

「まぁ難しい問題ではありますね」

 名付親はびりびりに破れたシーツを回収しつつ苦笑する。

「あの子供…ええっと、何だっけ?砂漠歩いてそうな……」

「キャメル?」

「そう、キャメル!あいつ、どーしてんの?」

「どうやら家出してきたようで。家のことも親のことも一切話さないんだ。しばらくはギ

ーゼラが面倒をみることになってますよ」

「そっか」

 家出してまでおれに挑みに来たってことか。

 おれを見る目は鋭く、確かに憎しみを帯びていた。

 あんな目、子供がしちゃいけないよ。

 いったい何故

 何があの子にそうさせたのか。

「うーん…うーん……」

「ユーリ」

「うわっ!?何……?」

 シーツを片付けていたはずのコンラッドの顔がいつの間にか目の前にあって、おれは思

わず声を裏返らせる。

「あまり考え込み過ぎるのは良くない。あなたの悪い癖だ」

「でもさ…」

「お疲れでしょう。今シーツを取り替えさせますから今日は早めに寝てください。いいで

すね?」

 何となく釈然としない感じはしつつも、疲れているのは事実だったのでおれは素直に頷

いていた。

 

                                  つづく

 

村田  「こんばんにゃん。ぼく猊下。で、こっち陛下とキレイなおねーさん」

ヨザック「あらやだ、猊下ったら。照れちゃうわん」

ユーリ 「どーでもいーけど。お前の正体わかるのって時間的にこの話より後だよな?」

村田  「それはそれ、これはこれ。タイムパラドックスってやつですよ。いやー何だか

     もうオールキャラだねぇ。ぼくは出ないのかな?出ないのかな?」

ユーリ 「時期的に無理だろ。いーじゃん、ここに出てるんだから」

村田  「渋谷。何か君冷たくなったね」

ヨザック「恋をすると周りが見えなくなるものですからねー」

ユーリ 「だーかーらー!誤解だって!愛人じゃないって!!」

村田  「次回は魔王陛下と少年の禁断の愛の行方!嫉妬にかられたわがままプーがとん

     でもない行動に出る!危ない、渋谷有利原宿不利っ、そこにはよく滑るバナナ

     の皮が!」

ユーリ 「人間不信になりそう……」


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