つもマのつく微笑みを!@


 はーい、ゆーちゃん笑って〜。あーもう!ぶすくれてちゃ駄目じゃない。可愛いお顔が

台無しよ

 だってカメラって魂吸い取る道具なんだろ?そんなのに向かって笑えないよっ

 大丈夫。確かに真ん中に映ると寿命が多少縮むって噂もあるけど

 やっぱ、嫌だっ

 わがまま言わないのっ。いい?ゆーちゃん。ゆーちゃんが笑ってるとね、パパもママも

幸せなのよ

 幸せ?

 そう。ゆーちゃんの笑顔はママ達の元気の素なの。ゆーちゃんもママ達が笑ってると嬉

しいでしょ―――

 

 

 そりゃずーっと恐い顔されるよりは嬉しいけども。

 写真のことと微妙に問題がずれてるような気がしたのはあの時のおれが幼かったせいだ

ろうか。

「あーもう、ヤバイなぁ……」

 上半身を起こして溜息をつく。そこは散らかった六畳の部屋ではなかった。

 帰れないという衝撃的事実を突き付けられてから1ヶ月。おれは未だスタツアれていな

い。

 あれから色々試してみたんだけどなー。

 噴水に飛びこんで……頭ぶつけて。

 池に飛びこんで……えーっと、意外に深くて溺れかけたんだっけ?

 その度にコンラッドに助けてもらって、ギュンターに泣きつかれて、ヴォルフにへなち

ょこ言われて、さすがに虚しくなってきたもんだから最近は無謀なことをするのは自粛し

ている。まぁ、帰るのを諦めたわけじゃないけどさ。まさか、高校生にもなってホームシ

ックを味わうとは思わなかったよ。

 人生何が起こるかわからない。

 て、いっても異世界眞魔国で魔王陛下やっちゃってます!な時点でおれの人生、かなり

普通じゃないけど。

「ん?」

 傍らで何かがもそもそと動く。

「何だよヴォルフー。勝手に入ってくるなって―――」

 いつものように布団をはいで、おれは固まってしまった。

「……は?」

 すやすやと安らかな寝息をたてていたのは、魔族似てねぇ三兄弟三男・ヴォルフラム―

――じゃない。多分。

 確かに金髪だけど。確かにハリウッドの子役並みに顔が整っているけど。

 そう、子役。まだ十歳にも満たないくらいの少年だったのだ。

「えーっと、縮んだ?」

 ファンタジー世界なんだからそれもありかもしれない。いや、ないだろ。いくらなんで

も。

「ユーリ!もう昼だぞっ。コンラートが出かけているからといって、いつまで寝ているつ

もりだ?」

 縮んだ説、予想通り大ハズレ。

 おれは布団で子供を頭まで覆い隠すと、ベッドから飛び下り部屋のドアを開けた。むす

っとした顔で立っていたのは今度こそ正真正銘わがままプー。

「寝癖がついてるぞ。みっともない」

「え、マジ?」

 ヴォルフはおれの横をすり抜け、部屋に入ってきてしまう。

「また勝手にぃー」

「いい酒が手に入ったんだ。ユーリも飲まないか?」

「昼から酒!?」

 八十二歳にはスリリングなんじゃあ?

 ヴォルフはいつの間に隠したのかベッドの下から二つグラスを取り出した。

「あーのーさー。ここお前の部屋じゃないだろー。それにベッドの下に隠すのはグラスじ

ゃなくてぇ」

 エロ本。

 と、相場が決まっている。この世界にそんなものがあるのかわからないし、この元プリ

殿下がその手のものに興味があるとは思えないけど。

「それと、おれ酒は飲めないからな。成長と健康のため、二十歳になるまでは何があって

も飲みません!」

「よくわからんが……。まぁ、どうしても嫌と言うのなら仕方ないな」

 いつもなら「ぼくの酒が飲めないのか!?」と詰めよってきそうなもんだけど、今日の

彼はすこぶる機嫌がいいらしい。何でかはわからないけどさ。

「ユーリ」

「うわっ!?な…何?」

 ヴォルフが急に肩を掴んできたので、おれは驚いて彼の顔を見た。

「コンラートは今出かけている」

「あーうん。昨日行くところがあるとか言ってたな」

「ギュンターはアニシナに拉致された」

「ら…拉致?」

「つまり!」

 ヴォルフはおれに顔を近づけてにんまりと笑う。

 うわっ、なーんか嫌な予感。

「ぼく達の邪魔をする輩はいないというわけだ」

「邪魔って何の!?」

 なるほど。それで嬉しそうだったのか。

「ユーリ。ぼくは―――」

「わーわー!!とにかく落ち着けヴォルフ!」

「ぼくは落ち着いている」

 そうかもしれないけど、おれが落ち着けていない。背中に汗が吹き出てくるのがわかる。

 ちょっと待て。本気で待て。ついに本格的に貞操の危機なのか、おれ!?

 何でギュンター、コンラッド二人そろっていなくなるんだ!

「ユーリっ」

「わーっ、シャワーシャワー!とりあえずシャワー!!」

 て、だから何言ってんだおれ!?

「……あれ、ヴォルフ?」

 肩を掴む手が緩んだので、おれは抵抗をやめた。ヴォルフの瞳に映っているのはおれで

はなく―――

「あ……」

 後ろを見て、絶望的な気分になる。

 あのハリウッドの子役がベッドの上で起き上がってしまっていたのだ。綺麗なエメラル

ドグリーンの瞳を眠そうにこすっている。

「ユーリ!」

「うぎゃっ」

 首の骨が折れそうな勢いでヴォルフがおれの顔を前に向かせた。

「尻軽にもほどがあるぞ!あんな子供にまで手をだすとは……」

「違う違うっ!有り得ないって。起きたら隣で寝てたんだよっ」

「見え透いた嘘をつくなっ」

「ついてません。断じて!」

 あーちくしょう。どう説明したもんかなー。て、いうかおれ自身にもさっぱり状況が飲

みこめていないってーの。

「ヴォルフ。おれがお前に嘘をついたことが今まで一度でもあったか?」

 ちょっと新しい手を使ってみる。

「そんなものいちいち覚えていない」

 あえなく失敗。ここは子供本人におれの無実を証明してもらうしかない。

「ねぇ君―――って、何してんの!?」

 おれもヴォルフも我が目を疑った。子供がシーツをびりびりに破っていたのだ。

「わーもったいない!」

「そんなことを言っている場合かっ。取り押さえるぞ!」

 ヴォルフがベッドに向けて猛ダッシュをかける。が、彼の手が届くのより先に子供はベ

ッドを下り、部屋を飛び出してしまっていた。

 鮮やかだ。

「何をぼーっとしている!つかまえろっ」

 プーの怒鳴り声に押され、子供に続いて部屋を出る。そして二、三歩進んでから足を止

めた。

「どーしたんだヨザック!?えーっと、死体ごっこか何か?」

「嫌だわー。陛下ったら」

 ヨザックは床に転がりながら腰をくねらす。

「助け起こしてくれなきゃ、ヨザ泣いちゃう」

「それより子供見なかった?」

「軽く流さないでくださいよ、陛下」

 彼は自ら立ちあがると少し顔をしかめてみせた。

「子供ならオレのみぞおちにタックルを食らわせて、どこかに逃げちまいましたよ。いや

ー鮮やかな不意打ちでした。オレも修行のし直しですかねぇ」

「見かけによらずパワフルだなぁー」

 もうどこにも子供の姿は見えない。さて、どーしたものか……

「逃がしただと!?」

「あ、坊ちゃん」

 部屋から出てきたヴォルフがおれとヨザックを交互ににらみつける。

 うわー。恐ろしくご機嫌斜めだよ。

「グリエ、どっちに逃げた?」

「え?ああ〜……オレを倒していったわけだから……あっち、ですかね」

「行くぞ、ユーリ!」

「わあっ!?」

 ヴォルフはおれを引っ張り全速力で走り出した。

「陛下〜、子育ては根気勝負よ〜」

 あああああああああ

 何か誤解されてるぅー。

 

                                     つづく

 

ユーリ 「続くのかよ!?」

ヨザック「無謀にも中編に挑戦ですってよ。陛下と坊ちゃんの間にめでたく子供ができたことですしねぇ」

ユーリ 「だーかーらー、あれは違うんだって」

ヨザック「どちらが生んだんですか?」

ユーリ 「洒落になんないこと言わないで……」

ヨザック「あらら、陛下がすねちゃったわ」

村田  「さーて次回の”ムラケン渋谷発見”は、ちょっと大人の香り満載でおおくりしたりしなかった

     り。子供は見ちゃダメ!みたいな?渋谷有利は年上のお姉さん好きなのか年下の坊ちゃん好き

     なのか気になる人は必見!えーっと、多分R0〜無限くらいです」

ユーリ 「ムラケン!?」


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