の為にできること


「コンラッド、おれを殴れ!つーか殴ってくれ!!文句は言わないっ」

「ユーリ、落ち着いて」

 あんたは落ち着き過ぎなんだ次男。この状況で何故笑っていられるのか。

 いつものように二人でランニングしてたら、あーらびっくり。

 おれ、穴に落下。助けようとしたコンラッドまで落ちる始末。と、ゆーか何でランニン

グコースに落とし穴!?しかも広くて深い。昨日まではなかったのに。

「こーなったら登るしか!」

「登れそうですか?」

 土の壁からはかなり大きめの石があちこちから覗いている。これに手足をかければ何と

かなりそうだ。

「うん、多分」

「それは良かった。なら申し訳ないですが人を呼んできてもらえますか?」

「へいへい人ね……って、え?」

 おれはコンラッドの方を振り返った。彼は壁に寄りかかっている。右足を不自然に浮か

せたままで。

「まさか……」

「少々ひねってしまったようで」

「マジで!?わー…ほんとゴメン」

 穴に落ちた時、おれはコンラッドを下敷きにしていた。咄嗟にかばってくれたのだ。

 あー、おれってば何て駄目人間……じゃなくて駄目魔王なんだ。せめて足下を見ながら

走っていれば!そんな走り方する奴あまりいないにしても!

「うわ、腫れてるじゃん。早く手当てしないと」

「大したことないですよ」

「あーもうっ!あんたは顔とか声に出さなさ過ぎ!!へらへら笑ってるだけじゃいい俳優

にはなれないんだぞ。痛いなら痛いって言え。これ、命令!」

 命令という言葉とおれの勢いに押されてか、コンラッドは少し顔をしかめた。

「まぁ、全然痛くないってことはないけど」

「だろ?だよな?じゃあ―――」

 おれはコンラッドに背を向けて少し背中を曲げる。

「乗れ」

「は?」

「乗れって言ってんの。ここから城までけっこうあるし、往復してたら時間かかっちゃう

よ。こっちの方が三倍早い」

 いーち、城に戻る。にー、誰か連れて穴へ。さーん、コンラッド助けてまた城へ―――

 一往復半じゃん。コンラッドの足の具合を考えると、いーちで終わった方がいいだろう。

「でも俺重いですよ?ユーリの体じゃ……」

「だいじょーぶだよ。おれ、野球児!それなりに力はある……多分。コンラッドの一人や

二人や三人や百人、どーってことないさ」

 訂正。百人はさすがに無理。あのCMの物置じゃあるまいし。三人…も無理かなぁ。二

人も……って、何弱気になってんだ、おれ!!

 コンラッドくらい千人乗せても大丈夫だ!

 ちょっと大見得きってイナバに喧嘩を売ってみる。

「本当に?」

「男に二言はない!…と、いうかさ」

 おれはそこで少し間を置いた。

「おれ、コンラッドに助けてもらってばっかじゃん。こんなんじゃ格好つかない。たまに

はおれにも助けさせてよ」

 あ、コンラッドのやつ笑ってやがる。おれには見えなくても彼がどんな顔をしているの

かわかるんだ。

 背中に温もりが伝わる。

 よし、いざ出陣!と思ったがどうも様子がおかしかった。これは乗られているというよ

り、抱きしめられているような?

「コンラッド?」

「俺は充分、あなたに助けられてますよ」

 上を仰げば彼の顔。目を閉じていたのでぎょっとする。

「ちょ…ちょっと待ってコンラッド!あんたまでヴォルフやギュンターのように、おれに

良からぬ感情を!?」

 んなわけないじゃん!

 おれはぐったりしているコンラッドを支えつつ、体を反転させた。彼の額に手をあてて

みる。

 ちょっとお兄さん、熱がありましてよ!?

「熱冷まシート…ってこんなとこにないって!」

 城に戻っても多分ない。おれはコンラッドを背負った。

 う…やっぱ重いかも〜

 おれは首を振って邪念をはらうと、出っ張った石に手をかける。

「ファイトォ〜」

 誰か一発って言ってください。

 手に力をこめて―――

 体が上がらない。

「ぬああああああ!」

 気合の入りそうな声をあげても無駄だった。

「うわっ」

 手を滑らす。汗をズボンで拭いてもう一度石を掴んだ。

 何度も何度も何度も―――

「あー!今の最高記録!?誰か測定をっ」

 といってもまだ三段目。地上にはほど遠い。四段目に行こうとして……落ちた。

「ぐっ」

 コンラッドの腹を尻でプレス。

「わー!!ごめんなさいごめんなさいぃぃ!」

 死んでいないのを確認するとおれはもう一度チャレンジすべく、彼を背に乗せた。

 が―――

「へ?」

 膝ががくっと傾き、コンラッドごと地面に突っ伏す。

 力が入らない。

 そろそろ限界だった。

 限界。ゲンカイ―――?

「…んなもん…あってたまるか……っ」

 男・渋谷有利。こんなところでへばってどーする。夏場の部活を思い出せ!

「…や、それより辛いだろ」

 だったらそうだよ、コンラッド!

 彼はいつだっておれを助けてくれたじゃないか。

 命がけで助けてくれたじゃないか。

 なのにおれは何だ?何、寝てるんだよ、立てよ!

 おれだってやる時はやるんだって、この名付け親にわからせてやろーじゃん!

「よっしゃ」

 おれは気合で立ち上がった。もう一度だ。

「ファイトォ―――」

「一発」

「…は?」

 この世界にリポビタンDを知っている方が?

 何で知ってるのコンラッド……って―――

「コンラッド!?」

 慌てるおれとは違い、落ち着き払ったコンラッドはおれの上からどく。

「お前熱は……って、うわ!?」

 腕を引っ張られ、おれはよろけた。そのまま彼の胸に寄りかかる。

 やばい。もう歩けないかも。

「手、血が出てる」

「これくらい平気だって」

 コンラッドは何も言わず、ふらふらのおれを背負った。

「わ…っ、こら、やめろって!足が…!熱が……!」

「これくらい平気です」

「平気じゃないだろっ。平気なわけない!」

 だってこんなに体が熱いじゃないか。

「ユーリ。俺はあなたの為ならできないことなんてないんだ」

「コンラッド……」

 うわー。ウェラー卿ってばおっとこまえー

 おれも誰かにこんなセリフを言ってみたいものである。

 感心している間にコンラッドは右足を庇いながらも上に登っていった。抵抗するとか馬

鹿なことはしないことにする。ただどうしようもないくらいの情けなさを感じながら、おれはコンラッドの背中に額を押し付けていた。

 

「陛下ぁ〜」

 長髪美人が涙を盛大に流しながらこちらにかけよってくる。

 あーあー綺麗な顔が台無しだよ。

「ああっ!お手にお怪我を!?すぐに医者を……っ」

「大袈裟だなぁ。見た目ほどひどくないってぇ。それよりコンラッド……」

「陛下ぁ〜おいたわしや……!!」

 聞いてないし。

 おれは困ったような顔でコンラッドを見た。彼は相変わらずの笑顔。足痛いくせに。熱

もあるくせに。

「……不謹慎…ですかね」

「え?」

「ユーリが俺を助けようとしてくれたことを嬉しく思ってしまうなんて」

「何だよそれー。おれ結局何の役にもたたなかったじゃん」

 ほんと、情けないったら。

「でも、嬉しかったんだ」

 コンラッドの、真っ直ぐな瞳。おれはむすっとした顔をして見せた。

「何か……ズルイ」

「そうですか?」

「うん。あんたには一生敵わないような気がする」

 くやしいけどさ。おれはどんなに頑張っても多分、コンラッドのようなナイスガイには

なれないよ。

「…それはこっちのセリフなんだけどなぁ……」

「へ、何か言った?」

「いえ…」

 コンラッドは苦笑するとおれからギュンターを引き剥がしにかかった。遠くからヴォル

フの声が聞こえてくる。心配して来てくれたのだろうか。

 空を見上げて、おれは思った。

 強くなろう。

 せめて大切な人達を護れるくらいには。

 

 後日。

 落とし穴の件をそれとなくグウェンダルに話してみたところ、アニシナさんの仕業だと

いうことがわかった。「何のための?」ときいてみたかったけど、彼のおびえた顔を見てし

まうと聞き出すことができなかった―――

 

 

                                    おわり

 

陛下頑張る、な話。

ムラケンに護られることになれなきゃならないとか言われちゃったりしてる

ユーリですが、まぁ、大人しく護られてるだけなのはらしくないですよね。

 

こういうユーリとコンラッド書いてるとやっぱり切なくなってきマス……

 

アニシナは何するつもりだったんでしょうねぇ?(笑


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