下と陛下のあみぐるみ事件簿


「子供達がっ!」

「は?」

 切羽詰った顔のグウェンダルが部屋に飛びこんでくる。ベッドに寝転がっていたおれは

慌てて飛び起きた。

 子供?

 しかも達!?

 グウェンダルってばそんなに隠し子が!

「来い。私一人ではどうにもならん」

「へ?え?何!?」

 おれはずるずるとグウェンダルの部屋まで引っ張られる。

 ちょっと兄さん、かかとがすれるんですけど。痛いんですけど。

「これを見ろ」

「え?」

 グウェンダルの部屋には父親に似なくて良かったと思えるような可愛い子供達が……い

なかった。

「なーんだ。隠し子ってあみぐるみのことかぁ〜って、あみぐるみさん!?」

 ああ、何ということだ。

 あみぐるみ地獄絵図!

 部屋の中には、毛糸を千切られ原型をほとんど留めていない沢山のあみぐるみ達が散乱

していた。

「わーグウェンってば子沢山…じゃなくて、これ何?」

「それはこっちがききたい」

 いつもの重低音が腹にくる。

 うわぁーめちゃくちゃ怒ってるぅー

「部屋に戻ったらこの有様だ。いったい誰が……っ」

 がんっ!

 壁がへこんだ。おしい!あと少しで穴が空きそうなのに。

「え〜っと、言っておくけどおれじゃないよ?」

 とりあえず自分の命の確保。

「そんなことはわかっている」

「コンラッドもヴォルフもこんな命知らずなことしないだろうし……」

 おれは手近にあったあみぐるみを拾い上げた。

 え〜っと、オレンジの……うさぎだったのかな。

 にっくき相手ではあるが、こうなった姿を見てしまうと可哀想だとか思ってしまう。

 敵ながらお前はよく頑張った。成仏してくれよ。

 そして―――

「あああああああああ〜!!」

 おれはうさぎを床に叩きつけ、グウェンダルの足下に転がる白い物体に飛びついた。所々千切れてい

てはっきりしないが、たてがみらしきものが確認できる。

 まさしく我らが白獅子!!

「グウェンっ!」

「何だ」

「犯人捕まえよう!一発……いや、八発くらい殴ってやらないと気がすまないっ!」

「うさちゃん達の敵をとるのか!」

 おれ達は珍しく意気投合。互いの肩をがしっと掴む。

「弔い合戦だ!」

 

 とりあえずおれ達は聞きこみをすることにした。火サスの刑事になった気分。タイトル

をつけるとしたらこうだ。

 

『無残に千切られたあみぐるみ達!難事件にお馴染み警視庁の身長差ありまくりコンビが

挑む!!現場に残された白獅子とオレンジのうさぎが意味することとは―――』

 

 いつも思うことだけど2時間ドラマのタイトルってやたら長いよな。タイトルじゃなく

てほぼあらすじだし。テレビ欄に入りきんないって。

「は、あみぐるみ?」

 事情を話すとヴォルフラムは何故かおれをにらんできた。ちなみにグウェンダルはギュ

ンターに聞きこみに行っている。

「まさかユーリ。ぼくを疑っているのか?」

「何でそうなるんだよ。怪しい奴を見なかったかきいてんの」

「さあ?ぼくは見ていないが」

「あ、そう。じゃ―――」

 去ろうとするおれだが、腕を掴まれた。何か嫌な予感。

「茶でも飲まないか?」

「や…おれ今忙しいし」

「ぼくは暇だ」

 わがままプーのわがまま攻撃!

 好かれてんのは嬉しいんだけど、こういうのは困る。

「だって……ほら、グウェンが…」

「ユーリはぼくより兄上がいいのか」

「そーじゃなくてぇー」

 あ〜もう。どうすりゃいいんだ。

「あーえーっと。今度何でも好きなことやってやるから……」

「本当か?」

「あーうん。ほんとほんと」

「ならいい」

 あっさりとヴォルフラムは離してくれる。何でもはまずかったかもしれない。ちょっと

ばかし後悔したが、今はそれどころではない。

 一刻も早く殺あみぐるみ犯を見つけなくては!

 

 ギュンターからも大した情報は得られなかったらしく、おれとグウェンダルはコンラッ

ドのもとに向かった。

「別に怪しい者は見ていないけど……」

「けど?」

「ちょっとそのあみぐるみ、見せて頂けますか?」

 おれはコンラッドに変わり果てた白獅子を手渡した。それをまじまじと見つめてから彼

は苦笑する。

「これをやった犯人は人間じゃない」

「へ?じゃあ、何」

「多分―――」

 

 めえと鳴いた。めえって。でも羊じゃないんです。

「犯人はお前かぁ…。いや、犯猫?」

 おれはグウェンダルの部屋に潜んでいた茶色い猫を抱え上げる。猫は毛糸が大好き。あ

みぐるみ達はこの猫の遊び相手になってしまっていたというわけだ。

 おれは脱力した。相手は無邪気に遊んでいただけの猫。怒る気はおきない。

「こーいうことだからグウェン。敵討ちはあきらめ―――」

 おれ、絶句。

 思わずカタコトになってしまうほど、おれの前に立つグウェンダルには迫力があった。

抵抗する間もなく、猫を取り上げられてしまう。

「わーわー!そりゃないだろ、グウェン!お前が怒ってんのはわかる!わかるけど動物虐

待はマズイって。てゆーか反対!動物愛護に賛成!!」

 慌てまくるおれを尻目にグウェンダルは椅子に腰を下ろし、膝の上に猫を置いた。毛玉

の一つを取り、猫に与えてやる。

「…何がおかしい?」

 睨んでくるグウェンダルにおれは「くくく」と笑った。

「いや、あんたらしいと思ってさ」

「ふん」

 グウェンダルの広い膝の上で、猫は嬉しそうに毛糸にじゃれついていた。

 

                                おわり

 

 

今回はグウェン話。

あみぐるみな事実を知り、彼に愛着が持てるようになりました。

可愛いもの好きな人に悪い人はいない!

アニシナ嬢に振り回される彼も好きなので、そのうちそんな話も書きたいとか思ったり。

何でもしてやる発言しちゃったユーリですが、ヴォルフは何を要求してくるんでしょうねぇ(笑


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