の力


「あかね!!」
 天真の声に、あかねははっと我にかえった。
「危ねぇ!!」
「はぁっ!!」
 天真があかねをつきとばし、頼久が彼女にせまろうとしていた怨霊を斬りつ
ける。
 去っていく怨霊をあかねはきょとんと見つめていた。
「逃がしたか…。」
 頼久が刀をしまい、こちらに歩み寄ってくる。
「どうかなさったのですか、神子殿?」
「ったく、ぼ〜っとしてよ。もう少しでお前、殺されるとこだったぜ?」
 困ったように首を傾けるあかね。
「ん〜…何かちょっと疲れてるみたい。」
「では、今日はもう帰りましょう。」
「そうですね。すいません……。天真君もごめんね。」
「別に…。」
 天真はぶっきらぼうに答え、そっぽを向いた。
 
「では、神子殿失礼します。」
「ありがとうございました。」
 あかねを部屋までおくると、頼久はその場を去っていった。あかねは天真の
ほうに視線をうつす。
「天真君も戻っていいよ。」
「…。」
 天真はあかねをじ〜っと見つめ、無言で自分の額を彼女の額にくっつけた。
「えっ!?」
 真っ赤になるあかね。
「ちょ…何……?」
「お前さぁ、熱あるぞ?」
「え?」
 あかねから顔を離し、天真は溜息をついた。
「お前って本当にこういうことには鈍感だからな。しばらく寝てろ。みんなに
は説明しといてやるから。」
「だ…大丈夫だよっ、これくらい!」
「本当かよ?」
「うんっ、ほら……って、わっ!?」
 飛び跳ねて見せようとしたあかねは、バランスをくずしそのまま天真の胸に
倒れ込んでしまう。
「全然大丈夫じゃねーだろーが。」
「う〜……。」
 体重を支えきれなくなったのか、ぺたんと畳の上に座り込むあかね。
「どうしてそんなになるまで無理するんだよ?」
「だって…不安なんだもん。」
 天真は目を見開いた。ここに来てから初めてきくあかねの弱音だ。
「京を救えるのか、とか、元の世界に本当に戻れるのか、とか……。何かやっ
てないと不安で死にそうなんだもん!」
「あかね…。」
 そうだった。
 彼女はその小さな体に、とても大きなものを背負っていたのだ。明るい笑顔
に隠され、見えなかった。不安でないなんて、ありえなかったのに……
「…何でそういうことは、早く言わないんだよ?」
「え?」
 あかねは顔を上げた。天真はしゃがみこみ、にっと笑う。
「そういう時のために、オレがいるんだろ?」
「天真君?」
「確かにオレは頼久みたいに強くないし、泰明みたいにいろんなことを知って
るわけじゃない。でも、こうやってお前の悩みをきいてやることはできる。」 
 天真はあかねの頭を優しくなでた。
「苦しくなったらオレに言え。一緒に苦しんでやる。お前の支えになってやる
から……な?」
「う……。」
 あかねの顔がくしゃっとゆがんだ。
「泣くなら泣きたいだけ泣けよ。」
「ううん。」
 あかねは首を横に振り、出かかった涙を服の袖で拭く。
「大丈夫。不安なのはみんな一緒だもん、私だけ泣くなんてずるいよ。それに
……。」
 豆だらけの天真の手のひらをぎゅっと握りしめるあかね。
「天真君のおかげで、少し元気になれたから…。」
「……。」
「ありがとう。大好きだよ。」
「お……おう…。」
 真っ赤になり、天真はそっぽを向く。
「と…とにかくはやく寝ろよっ。風邪はこじらすと厄介だからな。」
「うんっ!」
 あかねは満面の笑みで答えた。
 
 明日はどうなるんだろう?
 先のことはわからない。
 不安で押しつぶされそうな夜もある。
 でも大丈夫、大丈夫だ。
 
 お前のそばにはいつだって、オレがいるんだから。
                                おわり
 
あとがきのようなもの
 つーわけで天真です。お兄ちゃんです。凄い勢いで書きました。
 むぅ、さすが天真……(?)。
 真っ直ぐで熱い人ってなんかいいですよね。
 なんだかんだ言っても、いざという時一番頼りにできるのは彼のような気が
します。


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