邪をひいた日


 セラ、アルベルト、ユーバーが宿に戻ると、ルックが部屋の真ん中で倒れていた。アル

ベルトとユーバーが顔を見合わせ、セラが慌ててルックにかけよる。

「ルック様っ、ルック様!?何があったんですか!?」

「ああ……やはり昨日食べた生肉がいけなかったのか……」

「そうか?なかなかいけたぞ」

「それはお前だけだ」

「アルベルトっ、ユーバー!!漫才をしている暇があるならルック様をベッドにお運びし

なさい!!」

「……」

 アルベルトとユーバーは再び顔を見合わせ、同時に溜息をついた。

 

「頭痛、喉の腫れ、咳に発熱……。これは完全に風邪ですね。今、宿の者に氷を持って来

させてますから」

「う〜……。悪いね、アルベルト……」

「ルック様!」

 アルベルトを突き飛ばすセラ。彼は顔面から倒れたが、そんなことは気にも留めずルッ

クの手を握り締める。

「ルック様、しっかりしてくださいっ。貴方が居なくなったら、セラは…セラは……」

「セラ……」

 セラはベッドに顔をうずめ、すすり泣き始めた。ユーバーが顔をしかめる。

「何だ。その風邪とやらで人間は死ぬものなのか?」

「いや…」

 倒れたままぴくりとも動かなかったアルベルトが急に立ち上がった。わずかに出た鼻血

をハンカチでぬぐいつつ、

「よほどこじらせない限り死ぬことはないだろうな」

「なら心配する必要はないだろう?」

「まぁ、そうなんだが。そこで心配してしまうのが人間というものだ、人外」

「今さらりとけなされたような気が―――」

「気のせいだ」

 アルベルトは軽く流し、部屋のドアを開ける。

「アルベルト?」

「おい、どこへ行く」

「風邪に効くものでもお持ちしましょう。ユーバー、セラとルック様を頼んだぞ」

 そう言い残して、アルベルトは去っていった。

 後には立ちつくすユーバーと泣きつづけるセラとうなるルック―――。

 ――俺にどうしろと?

 ユーバーはベッドの方を振り返り―――ちょうどルックと目が合った。何かを訴えかけ

ている目だ。

「何だ。用があるならさっさと言え」

「………水…」

「はぁ?」

「ユーバー」

 セラが急に顔を上げたので、ユーバーはびくっと後ずさりをする。

「ルック様がお水を欲しがっているわ。早くお持ちして」

「何故俺が……」

「お持ちして」

「ぐ……」

 ユーバーはうなり、洗面所の方に体を向けた。

 

「悪いね、ユーバー」

「ふん……」

 ユーバーはルックに水の入ったコップを手渡すとそっぽを向いた。先ほどまで居た彼女が

消えていることに気づき、眉をひそめる。

「ああ、セラなら氷を砕きに行ったよ」

「そうか…」

 肩の力を抜くユーバー。これでほんの少しの間だが、落ち着くことができる。

「…まずいなぁ……」

 ルックが天井を見つめながらつぶやいた。

「こんなところで立ち止まっている暇はないのに……」

「……人間とは不便なものだな」

 息をつきながらユーバー。ルックが彼の顔を仰ぐ。妙に真剣な顔で……

「こんな僕を人間と呼ぶのかい?」

「人間だろう。お前のような弱い生き物はな」

 ルックは少し驚いたようだった。視線を天井に戻し、クスクスと笑う。

「…ありがとう」

「礼を言われる覚えはないが」

「うん。そうだね」

 そこで部屋のドアが開いた。ユーバーが身構える。

「何をしている?」

「何だ、お前か…」

 アルベルトの姿を確認すると、ユーバーは構えをといた。アルベルトの手には湯気がた

ったカップが握られている。

「ルック様。これをお飲みください」

「これは……?」

「シルバーバーグ家に伝わるスペシャルドリンクです。風邪に良く効きますよ」

「はぁ…」

 ルックはカップを受け取り、中身を見つめた。有り得ないくらいグツグツと煮たっている。

匂いも眩暈をおこしそうなほど強烈だった。

「これ…本当に効くのかい……?」

 飲んだら一発であの世行きのような感じだが。

「実証済みですのでご安心を。昔、弟に飲ませてみたところ、泣いて喜びすぐに熱がひき

ました」

 ――それ、喜んでたのと絶対違う!

「はやく飲め。立ち止まっている暇はないんだろう?」

 せかすユーバーに、ルックはごくりと唾を飲みこんだ。すうっと息を吸い込み、いっき

にカップの中身を喉に流し込む。半分まで飲んでから、ルックは力なく布団に突っ伏した。

「げほ…っ、な……っマズ…!!」

「良薬口に苦しです」

「そ……けほっ…それにしたって……っ」

 涙目になりながら咳き込むルック。

 ――破壊的だ…!恐るべし、シルバーバーグ……

「そこまで不味いのか?」

 ユーバーがルックからカップを奪い、残りの半分を飲み干す。

「…?上手いじゃないか」

「嘘だ。味覚おかしいって!」

 ルックはがばっと顔を上げた。涼しい顔のユーバー。さすが人外。あなどれない。

 と―――

「ルック様から離れなさい。人外、エロ目」

「っ!?」

 セラの声がし、ユーバーとアルベルトは瞬間的にベッドから離れる。

「おい軍師。今、ドアの開く音したか…?」

「いや、聞こえなかったが……」

 セラは氷をその辺に置き、ルックの手を握り締めた。

「ルック様。セラが居ない間、あの二人に何かされませんでしたか?」

「大丈夫だよ、セラ。地獄を見たけどね……」

「…あら?」

 そこでセラが顔をしかめる。そして、自分の額をルックの額にくっつけた。

「わ……っ。セラ…!?」

 真っ赤になるルック。

「ルック様……。熱、下がってますわ」

「え……?」

「まだ微熱はあるようですけど…」

 ルックはぽかんとする。アルベルトのドリンクが効いたのだろうか?

「でも安心はできませんわ。ごゆっくりお休みください」

「う…うん……」

 ルックは体をベッドに沈めた。氷を彼の額にあてるセラを見て―――

「……懐かしいですね」

「え?」

 セラの呟きにルックは顔を横に向けた。

「昔、私が風邪をひいた時、ルック様もこうやって看病してくださいました」

「ああ…そういえば……」

 あれはまだセラが幼かった頃のこと。

 彼女が出した高熱に、相当うろたえたのを覚えている。病人の扱いなどまったくわから

なかったので、レックナートから色々と教わったものだ。

「うん……懐かしいね」

「はい」

 ルックとセラはどちらからともなく微笑みあった。

 やがて眠りについたルックの手をセラはいつまでも握り続けていた。

 

                               おわり

 

 

あれ?アルベルトとユーバーは?(笑

多分、部屋の隅で縮こまってます。

 

これを書いた理由

1、ルクセラ(セラルク?)っぽいものが書きたかった

2、最強セラを書きたかった

3、弱いユーバーを書きたかった

4、ルックに「懐かしいね」と言わせたかった

 

以上

 

破壊者書くの楽しいです…v


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