師の仕事


 戦火の中、あいつは立っていた。

 無表情。コートが風に煽られ揺れている。

 戦況は俺達の方が不利。

 だってあいつの戦い方、めちゃくちゃなんだ。平気で兵を捨て駒にする。

「よぉ、王様。気分はどうだ?」

 嫌味で言ってやったのに、あいつは微動だにしなかった。

「敵陣に乗り込んでくるとは……。死んでも知らんぞ」

「ちょっとききたいことがあってね」

 俺は肩をすくめて見せる。

 死ぬ可能性があるのは承知の上だ。それでもこいつにききたい。

 こいつ―天才軍師・アルベルト・シルバーバーグに。

「お前、辛くないのか?」

「何が」

「何が……って………」

 そこで俺は初めて気がついた。アルベルトの足下に一人のハルモニア兵が倒れている。

槍には血がついていて……

「…アルベルト。お前……」

 アルベルトのコートの左脇の辺りが赤く染まっていた。何が起こったのかはだいたい想

像がつく。俺は唇を噛んだ。

「何だよ…それ……」

「シーザー、これは戦争だ。犠牲はつきものだろう。勝つ為には手段を選んでいられない

ことだってある」

「それは……」

「我々は軍師だ。敵…味方にさえ恨まれることは始めからわかっていたことだ」

「だったら……!」

 俺は思わず声を荒げていた。アルベルトの襟首を掴む。

「だったら何でそういう顔するんだよ……っ」

「顔……?」

「自分が…一番傷ついてるような……」

 何でだよ。

 何で兵たちより辛そうな顔をしてるんだ。

 平気なはずだろ?

 お前、平気で味方を捨て駒にするような奴じゃないのかよ?

 むかつく、むかつく、むかつく―――

「お前のそういうところが嫌いなんだよっ!しんどくても何も言わない。いつだって、平

然と一番損するポジションにいるんだ!」

「……」

「何でそうなんだよっ。もっと他に……他にあるはずだろ」

 こいつがこんな顔しなくてすむ方法が。

 ないわけないじゃないか。

「…っ」

 頭に何かを置かれ、俺は顔を上げた。

 これは、手……?

「…アルベルト……?」

「シーザー。これが私の選んだ道だ。お前が真似する必要もなければ、泣く必要もない」

「…」

 アルベルトは俺の頭を撫でる。幼い頃、俺が泣いていた時にそうしてもらったように。

 俺は目を伏せた。

「お前…ほんとに……馬鹿だ」

 アルベルトの胸に額を押し付ける。これ以上、涙は見られたくなかった。

 馬鹿にもほどがある。

 誰にだって幸せを求める資格はあるはずだ。

 こいつにだってあるはずだろ。

 こんなの納得いかない。絶対いかない。

 だから

 だから俺は顔を上げた。アルベルトの手を払いのけ、キッと睨みつけてやる。

「おい、よくきけ不幸おたく!」

「おた……?」

「俺はお前を不幸のままになんてさせてやらないからなっ!ざまあみろ」

 はははと笑う俺にアルベルトは怪訝そうな顔をした。

「覚悟しとけよっ」

 捨て台詞を残すと俺は踵を返し、後は走る。

 そうだ。不幸になんてさせてやらない。

 あいつは幸せにならなきゃならない。

 俺はそう思う。そう思うんだよ。

「シーザー、お前も充分馬鹿だと思うぞ」

 アルベルトのそんな声がしたけれど、俺は振り返らなかった。代わりに声を張り上げる。

「うるさい、アル兄っ」

 

                              おわり

 

……シザアル?(笑

いや、こんなつもりじゃなかったんですが

ええ感じな兄弟の絆にしようと思ったんですが

 

シーザー、それじゃ告白だよ……っ!


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