雨が晴れになるように

 夜が朝になるように

 向かい風が追い風になるように

 悲しみはいつか優しさに変わっていくよ

 だから笑って

 泣かないで―――

 

 

「シーザー。その歌、何?」

「……へ?」

 そこでようやく自分が鼻歌を歌っていたことに気づいた。ヒューゴの方を向き、首を傾

げる。

「…わかんねぇ」

「は?だって今歌ってたじゃん」

「んなこと言っても何となく出てきただけで……。何だったっけな、この歌……」

 ひどく懐かしい感じはするのだが。

 昔、誰かが歌っていたような……

 考え込んでいると遠くからアップルの声。

「シーザー。ちょっとこっちに来てくれる?」

「あ、は〜い」

 

 アップルから現在の兵の数が記された書類を受け取ると、シーザーはすぐに目を通し始

めた。

「あら、シーザー。その歌……」

「え…?」

 シーザーは顔を上げる。

「今、俺歌ってた……?」

「ええ。ずいぶんと懐かしい歌ねぇ……」

 口調からするとアップルもこの歌を知っているようだ。

「この歌、何だったっけ?」

「あら、シーザー。覚えてないの?」

「う〜ん……」

 シーザーは腕を組んだ。

「何となく覚えてんだけど、誰が歌ってたとかは全然……って、何笑ってんのアップルさ

ん?」

 クスクスと笑い出すアップルを仏頂面で見る。

「ちょっとね。お兄さんの方も可哀想だな、と思って」

「…アルベルト……?」

 何故、今彼が出てくるのだろうか?

 この歌は兄と関係があった……?

 

”泣くなよ、シーザー”

 

「あ……」

 ふと過去の風景が頭に浮かび、シーザーは目を見開いた。

 途端に真っ赤になる。

「うっわ。俺、もしかしてめちゃくちゃ恥ずかしい曲歌ってた……?」

「思い出せた?」

「う〜……まぁ……」

 シーザーは頭をかき、渋い顔をした。

 

 幼い時……本当に6、7歳の時のことだ。

 飼っていた猫が死んで、大泣きしたことがあった。

「シーザー。泣くなよ」

「…っく。アル兄は悲しくないの……?」

「そりゃ、悲しいけど……」

 アルベルトは困ったような顔をする。やがて何かひらめいたのか、ぽんっと手を打った。

「よしっ、シーザー。お兄ちゃんが歌を歌ってやる」

「やだよぉ〜。アル兄、音痴じゃんかぁ〜」

「な…生意気な……っ」

 アルベルトは一瞬ひるんだが、構わずに続ける。

「いいか。よくきけよ」

 そして歌いだした。

 

 雨が晴れになるように

 夜が朝になるように

 向かい風が追い風になるように

 悲しみはいつか優しさに変わっていくよ

 だから笑って

 泣かないで

 

 僕は君の笑顔が好きなんだ

 

 音が外れていて、正直その時は元がどんな曲なのかわからなかったけど、それでも妙に

心に響いて―――

 気づくと笑ってしまっていた。

 

「……て、アップルさん。あれ見てたの?」

 確かあの時はアルベルトと二人きりだったような気がするのだが。

 アップルは「ほほほ」とわざとらしく笑う。

「趣味悪いよ。アップルさん」

 シーザーはあきれたように肩をすくめた。

 

「あれ…?アルベルト、それって歌……?」

 ルックの問いにアルベルトは口をつぐんだ。

「…気分を害されましたか。すいません。昔からどうも歌は苦手でして……」

「そうじゃなくて、何の歌なのかなと思って……」

「…」

 アルベルトはわずかに目を細める。

 そして一言。

「大切な……思い出の歌ですよ」

 

 

 笑って

 僕は君の笑顔が好きなんだ―――

 

                                      おわり

 

管理人、単に歌う赤毛兄弟が書きたかっただけです。

それだけです。

弟の方はそこそこ歌は上手いんじゃないかと……。

兄ベルトはあれですね。

超絶的に上手いか破壊的に下手か

二つに一つだと思われます。

下手な方がいいなぁ……ってんでこの内容。

はい、全部妄想です


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